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カルマの契約者  作者: 茶城 ゆのみ
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プロローグ

朝六時、昨日の夜にセットした目覚まし時計が鳴ります。

音を止めて部屋の窓のカーテンを開けます。

陽の光が眩しいです。憂鬱な一日が始まりました。

髪を整えて、制服を着て、鞄に今日使う教科書などの荷物を入れます。

学校へ行く支度を終えました。次はご飯を食べます。自室を出てリビングに向かいます。

部屋の中は服やゴミで散らかり放題、私のお母さんは片付けることが苦手です。

お母さんが机の上でうつ伏せで寝ていました。隣には朝ごはんのベーコンエッグとフレンチトーストです。どれもスーパーで買ってきた既製品ですが私の大好物です。少しお母さんがつまんだのでしょうか、食べかけです。

いつもならペコペコで時間ギリギリまで食べています。ですが今日は食欲が無かったので、帰ってきてから食べようと冷蔵庫にしまいました。

学校に行く前にお母さんに風邪を引かないように、薄い毛布を掛けてあげました。


玄関の前にある大きな鏡の前で、身嗜みの最終チェックです。はい、今日も完璧です。

玄関の扉を開けて外に出ます。

通学路はサラリーマン、主婦、子供、色々な人がいて楽しいです。

学校に近づくにつれて同じ制服を着た人達を見掛けます。

そういえば今日の授業は私の苦手な数学がありました。いつもテストではギリギリ赤点で、クラスメイト達に笑われてしまいます。次こそは平均点を取って驚かせて見せます。


そんなこんな考えているとあっという間に学校に着きました。上履きに履き替えてクラスに向かいます。部屋の中は他クラスの人もいて活気溢れています。早く皆の輪に入ってたくさんお話したいです。

私の席は窓際の後ろから二番目です。何故でしょうか、私の席がありません。

前の席の子に聞きます。


「ねぇ!私の席っどこにあるの?」


答えてくれません。

後ろの席の子に聞きます。


「ねぇ、私の席どこかな?」


答えてくれません。

横の席の子に聞きます。


「わ、私の席、どこにあるの?」


答えてくれません。


クラスメイトが私の話を無視します。何故でしょうか、誰か教えてください。

担任の先生が来ました。先生に助けを求めます。


「先生!私の席がっ···席が無いんですっ!なんでですか!?それに皆···皆が私を無視します!」


先生も答えてくれません。

私を無視してHRを始めました。クラスメイト全員が着席している中、私は一人だけ先生の隣に立っています。

先生が出欠を取ります。出席番号一番の人から順番に名前を呼びます。何故でしょうか、私の名前だけを飛ばされました。


「なんで···なんでですか!?先生!!!」


私は先生の服を掴みました。どんなに引っ張っても先生はビクともしません。

誰もおかしいと言いません。誰も私を見てくれません。

私は教室を出ました。そのまま屋上に向かって走って行きました。

屋上に出ると有り得ない光景がそこにありました。私がいたのです。目を擦っても頬を叩いても目の前にいる女子生徒は私でした。

私が屋上の高いフェンスを乗り越えて先の方にいました。

もうわけわからないです。あれが私ならば私は一体何でしょうか。

私は気づかれないようにゆっくりと前進しました。

すると、フェンス越しの私がこちらを振り返り後ろに倒れていきました。



パァンッ



何かが弾ける音。

少し間を開けて生徒達の甲高い悲鳴。

何が起こったのでしょうか。急いでフェンスまで走ります。そこにあったのは、コンクリートの地面の上でぐちゃぐちゃになった私は死体でした。





朝六時、昨日の夜にセットした目覚まし時計が鳴ります。

音を止めて部屋の窓のカーテンを開けます。

陽の光が眩しいです。憂鬱な一日が始まりました。


「始まらないよ」


聞き覚えのない声が聞こえた。同時に、外の光も部屋の中も真っ暗になる。ベッドの軋む音が聞こえる。いつの間に侵入したのか、十一、十歳くらいの幼い少年が足を組んでベッドに腰掛けていた。軍服によく似た黒い装束を着ている。


「あなたは?」


「僕は(いつわ)。地獄の案内人」


「地獄?」


「知らないのか?」


眉を顰めた。

偽と名乗る少年は一冊の本を懐から取り出した。栞を挟んでいるページを開き、書かれている内容を見て頷いた。


「だねー。確かに君は自殺の罪で無間地獄に落とされた。無間地獄とは自殺する前の時間を永遠に繰り返すものだ」


「私が自殺?なっなんで···」


「自殺」という言葉に反応して心臓が掌で力強く潰されたように痛い。目頭が、喉が、じりじりと熱くなる。


「原因は同級生からのいじめと、母親の育児放棄だ。頭の中は常に都合の良い風にしか捉えてなかったみたいだけど、体が限界だったんだろう」


「そんなことない!そんなこと···ない···」


熱い、熱い、熱い、喉が焼けそうだ。声を発するだけでも精一杯だ。お願いだからそれ以上何も言わないで。


「本当は君も自覚していたんだろ?さすがに何千回も同じ時間を繰り返していると疲れたんじゃないか?」


「なんで···」


声が揺れ、涙が溢れ出した。頬を伝う滴が一粒一粒熱い。

全部わかっていた。わかりたくなった。

偽っていた記憶が真実へと変わり、頭の中をフラッシュバックする。

知っていた。朝ご飯も私に為に用意していたものじゃなくてお母さんのものだって、部屋が散らかっているのはお母さんが酒に酔って暴れていたからだって。

知っていた。私の席がなかったのはクラスメイトにいじめられていたから。先生もいじめを見て見ぬフリをしていたからそのままにしていた。

飛び降りたあの日、先生が出欠の時に私の名前を飛ばしたのは、クラスメイトや先生が私を話を無視したのは、私は教室に行かず屋上にいたから。

本当はわかっていたのに、いつのまにか自分を守るように記憶を捏造していたんだ。


「うわぁぁあん···!!あああぁぁ!!」


鼻水混じりの涙声。声を上げる度に喉が焼けて痛い。


「なっ泣くな!泣くな!老若男女、様々な罪人の涙は見てきたけど女性の涙だけにはどうしても弱いんだよ」


慌てる偽はポケットからハンカチを取り出して、私に差し出した。私は迷うことなく受け取って涙と鼻水を拭った。


「んまぁ気を取り直して、君は無間地獄から抜け出して成仏する気ある?」


「···そんなこと出来るの?」


「もちろん。僕は特別に煉獄の炎を自由に使うことが出来るからね」


「煉獄の炎?」


「煉獄山にある炎のこと。罪人に課せられている罪を浄化という形で、燃やして無かったことにすることが出来る」


偽がパチンと指を鳴らすといくつもの火玉が現れ、暗い部屋を照らす。赤、橙、黄、緑、青、紫と様々な色に変わる。これが煉獄の炎。


「綺麗···」


「煉獄の炎で君の罪を帳消しにしてあげる。そしたら君はすぐに成仏出来るよ」


「ほ、本当に?」


「もちろん。成仏した後は転生が待っている。新たな人生を歩むチャンスだ」


もう、同じ時間を繰り返し見なくてもいい。成仏して転生したら私は私じゃなくなるけど、違う私になって違う道を一人の人生を送れる。

答えは決まっている。私は偽に深々と頭を下げた。


「お願いです。私に出来ることなら何でもやります。だから···この地獄から助けてください!」


「話が早くて助かる」


顔を上げると偽は思惑通りと口角を上げてニヤリと笑った。


「君に伯脩(はくしゅう)という男を連れ戻して来てほしいんだ」


「はく···しゅう?」


「伯脩様は地獄の王であり、死者の罪を裁くことで有名なあの閻魔王の息子だ。今は彼が二代目地獄王として全てを統括している。しかし、彼はとある書物を持ち出して現世に行ってしまったんだ。その書物がどうやらやばいものらしくてね。君には仮だけど体は与えるし、僕の部下も一人寄越す。安心して現世に行ってもらって構わない」


情報量が多すぎて頭の中が処理しきれない。

少しだけ時間をください、整理するから。

私が成仏する為には、現世に行って閻魔大王の息子を地獄に連れ戻してくればいいってことだよね。


「君に一つだけ忠告しとく」


偽の声がワントーン低くなる。

突然、耳鳴りがした。鼓膜を叩くような激しい痛みに頭を抱える。ふっと視界が暗転し、崩れるようにして床に倒れる。


「君の魂の所有権は僕にある。どんな苦痛も快楽も意のまま、忘れないでね。それじゃあ現世で頑張ってね」


偽の楽しそうな声を最後に意識が途絶えた。

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