第5話 砂遊び
すっかり夜も更けて、草木も眠っているかのように物音をたてない。
そんな中、リンたちは疲れなど知らないかのように遊び回っている。
「リンくん、リリー!私、海行きたい!」
ミナは公園に飽きたのか海へ向かおうと誘ってくる。
「海かー…。」
「…。」
リンは葛藤している。確かに自分も海で遊びたいがリリーは水が苦手だ。もし水がかかったらと思うと海遊びは心配だ。
「うーん、砂浜で遊ぶくらいなら良いよ?」
「…。」
この妥協案にはリリーも賛成のようだ。
「ホント?やったー!早く行こー!!」
ぴょんぴょんと跳ねるミナにリンは足元に気をつけないと転びそうだなぁ、と考える。
静かな波打ち際、3人は楽しそうにはしゃいでいる。
「あ、リリーってレジャーシート持ち歩いてたんだね!」
「…。」
「うん、砂とか汚れが付いたら大変だし、ゴワゴワになっちゃうから。」
「へーっ。」
ぬいぐるみであるリリーは水もそうだが埃などの汚れも苦手である。そのため、リンがリリーのためにレジャーシートなどを持ち歩いている。
「それにしても、誰もいないね。」
「…。」
「うん、誰かいると思ったんだけどなぁ。でも、リンくんたちがいるからいいや。」
本当は静かすぎて少し怖いくらいだった。
しかし、こんなに広く静かな海を初めて見たこの興奮とリンたちを独り占め出来ているという事実で嬉しさが勝っているようだ。
「…。」
「…ん、どうしたの?リリー。」
しばらく3人で遊んでいると、リリーが何かに気が付いたらしい。こんなに青白い顔をしているリリーは熱を出した時以来だ。急いでミナを呼ぶ。
「ねえ、何があったの?」
「…。」
「あっちの方に何か見つけたらしいんだけど、怯えてる。」
「あっちって…、洞窟の方?」
ミナがサァーっ、と青くなる。
ミナもあの洞窟は苦手だ。怖いものは怖い。
「取り敢えず海で遊ぶのはやめて、僕の家に戻ろう?リリー、海も洞窟も見たくないって。」
「うん!分かった。リリー、大丈夫?」
「…。」
「…リリー?うん、分かった。」
「なんて言ってるの?」
「心配してくれて嬉しいって。」
リン以外にリリーの言う言葉を聞くことが出来ない。実際喋っているようには見えないが、リンが喋っているというからには喋っているのだ。
レジャーシートを畳み砂浜に作った穴を埋め、
立ち去ろうとしたその時、
「!?」
ミナも気がついてしまった。
洞窟がある方から人が流されてくるのを。
そしてその人が、自分のよく知る××だったということも。
立ちすくんで、動けない。腰が抜けて力が入らないのだ。
「…ミナ?」
その様子に気が付いたリンが駆け寄ってくる。
「大丈夫?行こ?」
リンが手を差し伸べる。
その手を掴み何とか立ち上がると、
「は、早く行こうっ。」
後ろからリンとリリーを押しながらも足早に進み始める。
早く、早く、と、うわ言のように繰り返すミナを疑問に思うリンだったがリリーのためにも急ぐことにした。
段々と冷えてきた風が3人の間を吹き抜ける。