第2話 妖精さん
「おはよー。」
隣でまだ“眠っている”リリーに声をかける。
「…。」
「えー、まだ寝るの?」
「…。」
「もう、仕方ないなぁ。」
リリーがまだ眠たいと“言う”ので遊びに行きたいのは諦めて再び眠りにつく。
「…おやすみ、起こしてごめんね。」
「…。」
暗い部屋の中、少女が呟く。
「ねえ、リンくん今日も来るかな?」
ヒソヒソとからかうような声で悪態をつきながら飛び回る小さな影たち。その影たちの言うことに少女は、
「やだよ、ここから出たくないもん。」
と、答えた。さしずめ、自分から会いに行けとでも言われたのだろう。
少女の答えに不満なのか、小さな影たちはさらに騒々しく喚く。それを聞いてムッとした表情になった彼女は彼らに言う。
「うるさいよ、嫌だって言ったら嫌なの!」
少しだけ声を荒らげて言った一言にピタリと静かになった彼らは自分たちの身を寄せあい、まるで何かから逃げようとしているかのように部屋の隅へジリジリと下がる。
何かに怯えはじめた彼らに少女は不思議そうな表情を浮かべる。
ピンポーン
インターフォンの音が響く。
「だぁれ?」
なんの警戒心もなく少女はドアを開ける。すると目の前には少女と同じくらいの幼い少年が立っていた。
「やあ、ミナ。」
少年は少女の名を呼ぶ。ミナは、初めましてなのに何でお名前知ってるの……と不思議そうな顔をするも挨拶を返す。
「こんにちはー?」
よしよし、と満足そうな顔をするとご褒美と称して少女に飴玉を与える。素直に喜ぶミナに訊ねる。
「ところでミナ、キミはあの妖精さんたちはどうしたんだい?」
ここで、部屋の隅に固まっていた小さな影たちがどよめく。
「分かんない。いきなり怖がってぶるぶる震えはじめたの」
ミナがそう答えると少年は、ニヒルな笑みを浮かべ、そっかぁと1人頷く。
「そっか、じゃあちょっとだけお話して聞いてくるよ。」
そう言って小さな影、いや妖精たちに爽やかな笑みを見せる。
恐怖で動くことの出来ない妖精たち。その姿はまるで蜘蛛の巣にかかった蝶のようだ。
少年が、ちょっとあっちを向いてて?とお願いすると少女は、わかったーと後ろを向く。
そして、1匹の妖精を鷲掴みにし、そのまま____。
「もーいいかーい?」
飴をなめ終わり退屈になった少女が問う。
「もーいいよー。」
返事が聞こえたので後ろを向くと、少年とその肩にはさっきの妖精たちの姿が。
「じゃあ、僕は帰るねー、妖精さんたち、ミナ、仲良くするんだよー。」
そう言って少年は帰っていく。
「あの人、誰だったんだろ?」
さっきより静かになった妖精たちを見て急に寂しくなったミナは、ボソリと呟く。
「やっぱりリンくんの所に行こうかな……。」
決断したのかそのまま、お留守番しててねーと外へ駆けてゆく。ミナは気付かなかった。少年が帰った後、妖精たちの数が少しばかり減っていたことに。
ここはネバーランド、子供の国。
リリーは動くはずがないんです。
だって、____。