幕間 とある宰相の畏怖
ガルウェン公爵のお話です。
私はこの国の宰相をしているガルウェン公爵だ。
しているというか、最近なったか。
今現在、この国はものすごい勢いで改革が進んでいる。
主に改革が進んでいるのは人事であり、ただ爵位が高いだけの不要で無能な人物は外され、有能な人物は出世していっている。
少し前の我が国の状況からすれば考えられない事だろう。
権力が全てであり、出世するには賄賂を贈るか罪をなすりつけるかがほとんどであった。
そんな腐った我が国の状況をたった一人の少女が変えたのだ。
いや、少女の皮を被った悪魔か。
本来、そう思う事自体不敬極まりないのだが、そう思わずにはいられない。
彼女は、女王陛下は悪魔である。
元々は女王陛下、システィーナ様は女王になどなれるはずもなかった。
当然だ。
何しろ第13王女なのだから。
先代の王は好色な人物であり、たくさんの側室と子供がいた。
その中でもシスティーナ様の母親は特に身分が低く、王位継承権もほぼ最低であった。
一応王族とは認識していたものの、王族としての権力などあってないものであったし、本人も目立つようなことはせず、ただただおとなしいだけの平凡な姫であった。
今思えば、あんな崩壊した後宮で身分が最低辺なシスティーナ様がそのように育つはずもないのに。
システィーナ様が本性を表し始めたのは私の娘であるイザベラの婚約破棄の時だったか。
執務の最中に影からイザベラが婚約を破棄され、罵倒されているという連絡があった。
しかもイザベラには何一つ問題はなく、ありもしない不当な罪を着せられそうになっていると。
流石はこの国の次代を担っていく若者たちである。
腐っている。
人のことは言えないものの私はイザベラの親だ。
イザベラが罪に問われるなどあってはならない。
私は急ぎ支度し馬車に駆け込む。
もちろん、私の優秀な影によってイザベラの無実の証拠はそろっている。
......今思えばそんな証拠がすぐにそろうなんてよくできた話であるな。
そして、婚約破棄の現場に入った私の目に映ったのは今にも泣きだしそうな顔をしたイザベラと、イザベラを守るようにして前に立つシスティーナ様であった。
この時の私はシスティーナ様を平凡な姫ではなく立派な意志のある姫だと思った。
そしてこんな国に生まれなければとも。
その後、円満に解決した後はシスティーナ様はよく私の屋敷に来るようになった。
最初は身内の不始末を理由に。
次からはイザベラに会いに。
いつの間にかシスティーナ様はイザベラの良き友人となっていた。
そして私はイザベラからシスティーナ様の事をよく聞いていた。
幼いながらも聡明で勇気があり強い志を持っている立派な人物であると。
システィーナ様が王ならこの国は豊かになると。
イザベラにはこの国がいかに醜いかを見せたくなかったので箱入りなところがあるが、仮にも公爵の娘だ。
それなりの知識もある。
そんなイザベラが第13王女である、しかもまだ成人もしていないシスティーナ様を王に推すのだ。
普通じゃない。
なんとも嫌な予感がして一度話してみたいと言ってしまった。
そして、初めて対話したとき、システィーナ様は本性を表した。
見た目は聖女のようなシスティーナ様だったが、その本性は悪魔のように真っ黒な人物であった。
システィーナ様は優雅に微笑みながら次々と私の逃げ道をなくしていったのだ。
システィーナ様から語られる計画はある種のクーデター。
そして人の心を弄ぶ計画の数々。
本人の口から語られることはなかったが、今回の婚約破棄もシスティーナ様が裏から操っていたのは確かだった。
このような悪魔、生かしておいていいのかと一瞬思った。
その瞬間、
「悪魔だなんてひどいですね」
彼女はそう言った。
人の心を読んでいるかのように。
そして次に出してきたのは王侯貴族の弱みの数々。
公開されれは没落は免れられないような。
その中には当然のように私の弱みもあった。
さらに驚きなのはその弱みの証拠を持ってきたのが私の影であったことだ。
私に忠誠を誓っていたはずの影はいつの間にかシスティーナ様の影になっていたのだ。
このような人物に逆らえるはずがない。
完全に逃げ道をなくした私はシスティーナ様に恭順するしかなかった。
さらに逃げ道を防ぐかのようにイザベラの事も最後にほのめかされた。
こうして、私は悪魔の手下となったのだ。
しかし、結果的にはこれでよかったと思う。
システィーナ様の指示を受けて動き、最後には宰相となることが出来た。
もちろんシスティーナ様が女王となられた直後に私を指名したからだ。
そして始まったのは大改革だ。
無能で身分が高いだけの者は悪事の証拠と共に民衆にさらされ、処分された。
身分が低くても有能な者は正当に評価され、順調に出世していった。
腐りきっていたこの国はシスティーナ様の手によって破壊され、再生されようとしている。
そう、誰がどう見てもこの国は良い方向に向かっているのだ。
その影でシスティーナ様の悪魔的所業があったとも知らずに。
私はシスティーナ様に忠誠を誓おう。
間違いなくシスティーナ様は王の器であり、国を良くする偉大な人物だ。
そして同時に恐れよう。
全てを読み、操るシスティーナ様は正に悪魔である。
少女の皮を被った悪魔である。
システィーナ様が何を目指しているのかはわからない。
その先にあるのは破滅かもしれない。
しかし、私はもう引き返せない。
システィーナ様の配下として共に進むしかないのだ。
「そんなに考え込まない方がいいですよ。なるようになりますから。ふふふ」
目が合った。
私の顔を覗き込むようにしているシスティーナ様。
その表情は優雅に微笑んでいる。
そしてその目には私の全てが写っていた。
次は明日の予定!




