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ナナイロシチヘンゲ  作者: タイヘイタ
1章:生存権の確保
7/23


どうしようもこうしようも、多勢に無勢では勝てる訳がない。逃げるしかない。前も横も敵がいて後ろは崖になっていて逃げ道なんてないけどな、ハハッ!!


考えている間にも包囲網は狭まっている。少しでも距離を取る為に後ろに下がる。だが、すぐに後ろ足が崖の端にかかった。


これ以上は下がれない。じりじりと距離が詰められていく。嫌だ。イヤだ。死にたくない。死にたくない。


逃げなきゃ。どこに?前か?無理だ。3体の間を抜けるはずがない。なら横か?音の感じからして1,2体だと思うが…


いや、止めよう。抜けられてもすぐに追いつかれる。大人と子供じゃ体力が全然違う。残る選択肢は後ろ。崖だ。


崖は垂直ではなく僅かに傾斜している。イケるか?狼たちはもう跳びかかれる程の所にまで来ていた。悩んでいる暇はない。


狼たちを睨みながら後ろに跳んだ。浮遊感を感じたのもつかの間に地面に引っ張られた。狼たちが上に流れていく。


うおぉおお!!こえぇえぇぇ!!


足をバタつかせ崖に何とか近づく。前足がつき、後ろ足がついた。思い切り崖に爪を立てる。が、少しスピードが落ちただけだ。


崖に線を描きながら滑り落ちる。痛い。爪の付け根が痛い。それでも力を緩めることは出来ない。まだまだ地面は遠い。


パキッ


冗談に思える程に軽い音がして爪が割れた。右前足だ。残りの足で身体を支える。続いてパキパキパキと音がした。


残りの爪が割れてしまった。弾かれるように崖から身体が離れようとする。このまま地面に激突して死んでしまう。


足を操り身体を崖に叩き付ける。歯を食いしばり衝撃を耐える。足を閉じ崖を転がる様にして落ちていく。


身体のあちこちが痛い。数秒転がり続け、ふいに左側に強い衝撃を感じた。目を開けると地面が見えた。


立ち上がろうとする。左側が思うように動かず立ち上がれない。さっきの衝撃で骨折してしまったのか。痛みはあまりない。


アレか。何かアドレナリンとかが出ているのか。分からない。そんな事はどうでもいいか。時間を掛けて立ち上がった。


左側は未だに言う事を聞かない。けど、いつまでもここにいる訳にはいかない。いつ狼たちが来るか。


左足を引きずり崖から離れる。目的地はない。ただ、出来るだけ遠くに。遠くに。歩くよりも遅い速度で。


どれだけ離れただろうか。1時間は動いた気がする。いや、本当は10分にも満たないのかもしれない。


気づいた時には開けた場所に出た。中央に大きな木が生えている。その周りには木どころか草さえ生えていない。


ここは崖の上で見た場所か?所々に開いた場所があった。他の所もこんな風になっているのだろうか。そんな事を気にしている場合ではないか。


すぐに移動しなければ。中央の木に近づかず縁に沿って動き出した。横に移動したことで木の裏側が見えた。


木に大きな洞が開いていた。入口はそれほど大きくないが中は大きそうだ。あの中に隠れるか。もう身体が動きそうにない。


茂みを通り何も生えていない土に足をつけた。悪寒が走った。思わず後ずさる。なんだ今のは。あの木に近づきたくない気がした。


もう一度土に足をつける。同じように悪寒が走った。木に近づいて行く。近づくほどにすぐにでも走り去りたい気が強まっていく。


それでも木に向かう。他の場所に行ける程に体力がないだけだ。木が凶悪な魔物に見えてきた。洞が大きな口の様だ。


竦む足に活を入れ身体を持ち上げた。洞の中に滑り込んだ瞬間に、体力が限界に達し気絶した。

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