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食べカスを置いて行くのはいいとして、今更ながら気づいた事がある。この身体、小さい。目の前の狼と比べると大きさは半分くらいだ。
もしかして、子どもの狼だったのか?何となく違和感があった。爪がそこまで発達していないのもそうだし、半身だけで腹が満たされたのもそうだ。
違和感の正体がはっきりとしてスッキリした。喉の奥に引っかかった魚の小骨が取れたような気分だ。コレで後顧の憂いなく出発できる。
っと、刀かたな。忘れるところだった。狼の姿じゃ刀なんて使えないけど武器を失うのは怖い。早速、憂いがあったけど気づけたからノーカン。
さてと、どうやって持っていこう。取り敢えず人に戻って刀を鞘に納める。このまま持って歩けたら一番なんだけど。
足裏が痛いしそれはしたくない。狼になって鞘の真ん中あたりを銜える。やっぱりこうするしかないか。
手に持てない。背負えない。なら口を使うしかない。ただ、こうすると狭い道を通り難くなってしまう。その時だけ人に戻るのも手か。
今度こそ歩き出す。目的地は変わらず人里。狼の嗅覚を最大限に活かして人の匂いを追う。…人の匂いってどんなのだろ…
よく分からないがそれでも鼻をひくつかせ進む。茂みの中を進み、岩を跳んで上り、少し進むと先が開けていた。
そこは崖になっていた。それほど上ってきた感覚はなかったがかなりの高さだ。ここから落ちたら運が悪ければ死ぬかもしれない。
だが、高さがあるおかげで遠くまで見渡す事が出来る。人里を見つけたい俺にとっては助かる事に変わりない。
何も見逃さない気持ちで左から右へ見渡す。木と川と所々にぽかんと開いた場所。視界にはそれらしか見えない。
木々が途切れている所も、人が暮らしていそうな場所も、何も見当たらない。人に戻って高さを稼いで見渡すも見えるのは同じ景色。
終わった。今日中に人里に着くなんて到底無理だ。てか、この森を抜ける事も無理なんじゃないか?そうなると本格的にこの森でサバイバルしないといけない。
うわぁ…マジかぁ…最悪な事態を想定していても、心のどこかではどうにかなるだろうという気持ちがあった。でも、コレだ。
もう何も考えたくない。狼になる。うふふ~私はどこにでもいる普通の狼よ~あはは~……あはは……はぁ…
バカな事やってないでどうするか考えるか。う~ん…生活に必要なものは挙げればキリがないが、最低限で言えば、食料・水・雨風を凌げる場所、か。
寝込みを襲われるのが一番怖いからな。安心して眠れる場所の確保は食べ物の確保と同じくらい重要だ。
そうと決まればここでぼーっとしている時間はない。一先ず水が確保できる川を目指して移動だ。
「グルルルル…」
振り返ると牙を剥き出しにして威嚇する狼の群れがいた。見えるだけで3体はいる。更に左右からは動く音が聞こえてくる。
囲まれた。なんでこうなるまで気づかなかったんだ。そうだね!風上にいたから匂いに気づけなかったんだね!チクショウ!!どうしよう…