11月11日 ~歩きお遍路6日目~
午前4時、サウナの休憩室で目を覚ます。
隣でデブなおっさんが超ウルサイ寝言を言いながら、俺の方に顔を向けて寝ていた。
息がくせえ……
不快臭で目が覚めたら、荷物をまとめて午前5時には外へ出た。
足もだいぶ快調で、潰れたマメもそんなに痛まない。
バンソーコーで傷を保護してるからだ。
靴下も二重に履いている。
もう足にマメを作るのはゴメンだし、マメ対策は万全だ。
あ、そうだ。
結局、徳島市街で靴は買わないことにした。
なんかさ、お金がもったいないなって思ったから。
しかも重たいブーツが荷物になっちゃうしね。
ブーツ捨てるなんてもったいないことも出来ないし。
スムーズに徳島市街から脱出して、18番恩山寺から19番立江寺まで行って納経してもらった。
えーと、特にお寺について言うことはないです。
だってどこも景色が一緒に見えるんだもん。
貴重な建築物や仏像を見ても、心に響くものは何もない。
混合阿修羅像?
へーすごいですね。
作るのに一体何年かかったんでしょうね?
でも、だから何なんだ?
そういうのってきっと、希少性と芸術性を評価して人が見に来るから、価値があるんだよな?
でも、俺に芸術を見る目はないんです。
生産性がなければ、なんの価値もないように思えるんです。
その像が観光の収入源になってるのは知っています。
でもさ、なんか違うのよね。
例えば……そう、刀。
刀って本来芸術品じゃなくて、ただ人を斬るためのモノでしょ?
人を斬る刀に対して、俺はちゃんと価値を感じることが出来る。
けど今の時代では、刀は人を斬るために作られてない。
完全に芸術品として鑑賞される用に作られてる。
そんな刀に、俺は価値を感じない。
きっとそんな感じじゃないのかな~と思うのです。
いや、ごめん。
ここら辺はうまく説明出来る気がしないです。
で、今日は20番の寺鶴林寺への道の途中にある、道の駅で寝ることにした。
20番の寺は山の山頂にあるらしく、体力的に結構試される場所らしい。
それでも焼山寺よりはマシらしいけど。
道の駅はちょうど山の手前にあって、宿泊……てか、野宿するにはベストな場所なのであった。
にしても、徳島の地域は山が多い。
もしかしたら歩きお遍路って、意外と登山者とか多いのかもしれない。
そんなことを考えながら、今日は田んぼの道と国道の歩道をひたすら移動した。
しばらく歩くと、道の駅に無事到着。
道の駅のバックには広大な山々が聳え立っている。
美しいとか感じる前に俺が思ったのは、もう嫌だ~!!ってことだった。
もう山なんか登りたくないんだよ。
平地を歩いていたいんだよ。
楽したいんだよ。
汗流して臭くなりたくないんだよ。
そんな本音を押し込んで、溜息を吐いちゃう俺。
うん、明日のことは明日のこと。
今日は今日のことを考えよう。
とりあえず、まずやるべきことは道の駅の寝床を見つけることである。
俺はテントを持っていない。
寝袋だけ使用して、野宿するスタイルだ。
でも、なるべくならアスファルトの上に寝袋を敷いて寝たくはない。
寝袋敷くならベンチの上がいいんだよなぁ……
だからベンチを必死こいて探していく。
そして、見つけた。
お目当てのベンチを。
……ついでにホームレスのおじさんも。
そう、道の駅に面白いホームレスのおじさんがいたのだ。
親しみやすい雰囲気をしていたので、声をかけることに抵抗はなかった。
聞くと、そのおじさんは6回も歩きお遍路をしている60代で、おじさんって言うかおじいちゃんだった。
なんと、30キロの荷物をキャリーカーで運びながらお遍路をしていた、超人的体力を持つおじいちゃんだった。
四国が地元らしいが、家はない。
家族も親戚も死に絶えて、天涯孤独の身らしい。
ならどうやって生活してるのかと言えば、道端でお経を唱えながら、通りがかりの普通の人にお金のお接待(お布施とも言う)してもらうことで生きているらしい。
こういう風に、お経を唱えて現金を得ることを托鉢するって言うんだと。
自分のことを、お経を唱えるホームレスだと言っていた。
へぇ、こういう風に生活してる人もいるのか。
実際にお遍路しなきゃ、一生知らないままだっただろうな。
今日は良いことを知った気分だ。
でも、四国のホームレスって普通のホームレスとは全然違った感じがするな。
なんて言うか……宗教色が強いせいか、徳のある人物に見えると言いますか。
俺、上野のホームレスと生活したことあるけど、全然違う感じがする。
ホームレスって1人の人間としては、大いにアリな在り方だと俺は思う。
彼らを異端視する奴らは多いけど、実は彼らも誇りを持って生きている。
そこら辺の若者より、良識を持って生活していることも多い。
だってホームレスの人って、元経営者とかエリートって人が結構多いから。
上流階級の付き合い方を知ってるんだよ。
同時にサバイバルな生活に耐えてもいる。
実は経験豊富で、すげえ人達なんですよ?
ホームレスって。
ま、そんな生活を肯定する俺も、どこかで破綻してるなんてホームレスに言われたわけですけど。
そんな話をしたら、お遍路のおじいちゃんはゲラゲラ笑って「君はおもしろい奴だな!!」と俺を評価なされた。
そっすか、面白いっすか。
まあ、光栄です。
他には、お遍路の旅で注意しておくべきこととかのご教授を受けた。
もし山で熊にあったら、死んだふりをすることとか。
いや、でも熊に対して死んだふりは逆効果じゃなかったっけ?
俺が正直にそう言うと、「君を殺したかったんだよ、ハハハハ!!」とか狂ったことを言いやがった。
おじいちゃんもやっぱり普通の人じゃねぇなぁ、とか思ってたら、この人酒を飲んでいた。
しかもアルコール度数50パーセントの激強のお酒を。
でも顔は真っ赤になっていない。
ホームレスってお酒に強い人多いからなぁ……
聞けば、これで体が暖かくなるとのこと。
酒を勧められたが、俺は遠慮した。
俺、酒に弱いから絶対に二日酔いになるし。
午後6時くらいになってようやく日が沈んだので、見つけたベンチの上に寝袋敷いて寝た。
蚊の野郎が俺の顔を吸血しやがるので、顔も寝袋に埋める。
絶対血は吸わせない。