11月10日 ~歩きお遍路5日目~
今日は1時間しか眠れなかった。
俺が寝てるアスファルトの隣の国道がさ、車の往来激しいんだよ。
音と風が凄まじくて、寝るどころではなかった。
特に俺は聴覚過敏なアスペだから、当然寝れねぇ……
朝起きたら足はマメだらけだし、体はガチガチに痛んでるしで最悪なコンディションだった。
本当に最悪。
ホームレスと一緒に生活してた頃でも、こんなに最悪なことはなかったぞ。
でも、それすらどうでもいい。
足がもげるよりましだろ?
そんな風に強がって、寝袋から起き上がる。
傍にゴキブリの死骸があった。
……気持ち悪りぃ。
でも、旅をするならこういうのにも耐性をつけとかなきゃいけない。
流石に大ムカデとか見た時は、叫びながら逃げたけどさ。
なにあの気持ち悪いフォルム。
絶滅して永久に地球からいなくなればいいのに。
今日は無理せずとろいペースで30キロは歩いたかな?
13番大日寺の寺から17番の井戸寺に行って納経してもらい、今度は徳島駅近くのちゃんとした宿で1泊することにした。
もう野宿には耐えられない。
1回このマメが潰れた足をどうにかしないと、痛みで頭がどうにかなりそうだ。
消毒もバンソーコーも貼ってないせいで、細菌感染がマジで心配なのである。
血も滲んできた。
辛い。
歩くのが苦痛だ。
あれ、でもまだお遍路5日目だろ?
この先まだまだこんな道が続くんだろ?
……やばくね?
ああ、歩きお遍路をする人の70パーセントが途中で脱落する理由が、よく分かった。
こういう不安感と戦ってたんだな。
これが老人とかだったら、精神的にキツイだろう。
ヘタしたら死ぬからなぁ……
でも、まだ大丈夫。
俺にはバックボーンがあるから。
俺は海外で何回も死ぬ直前まで追い込まれてきた。
盗難なんてザラだった。
ホモォな人とホモホモしそうになったこともある。
日本人だからって舐められたのが原因だ。
発達障害で挙動不審だったのもあるだろう。
ああ、懐かしい。
あの時、日本のいじめがどんなに楽なものだったか、ようやく理解出来たもんなぁ。
だって生きるか死ぬかの世界だもの。
だから、日本のいじめはまだマシと言える。
ま、こういった話をしても、他の日本人には信じてもらえない。
こんな経験、普通しないもんなぁ。
普通の人だったら信じねぇよ。
そんなことを思い出しながら、俺は田んぼと山に囲まれた道を歩く。
道は平坦で、山道は一切なし。
のどかな田舎道を歩くことが多かったかな。
昨日の地獄みたいな思いはしなくてすんだ。
たまにタヌキを見かけることがあって、俺をキラキラした目で一瞥してくる。
可愛いとは思わないが、結構珍しい場面かも。
四国には熊もいるらしい。
山の中で会ったら死ぬよな、俺。
いや、まあいつ死んでもいいんだけどさ。
何度も死ぬような目にあったせいか、死ぬことが怖いものじゃないと思ってしまった。
でも、死ぬことに希望を見出してるわけじゃない。
覚悟してるだけだ。
日本で生きるなら、こんな覚悟本来は必要ないんだけど……
そういえば俺、日本で生きてくのに不必要なものばっかり経験してるなぁ。
30歳になっても俺がまだ生きていたならば、海外に住もうかとも思う。
分相応に、発展途上国でいいだろう。
本気で悪くないと思える。
日本ではただの役立たずだからな、俺。
言葉が通じない国の方が暮らしやすいと思えるという、この矛盾。
ああ、ダメだな。
田舎道を見飽きたと思ったら、またネガティブな思考してる。
いや、それも当然のことかな。
旅はいつも1人だ。
だから自分と会話することがとても多い。
そういった行為は自分の孤独を深めるようで、何だか嫌な気持ちになってくる。
深淵を見つめれば、深淵はまた俺を見つめ返す。
俺は俺を見ている。
自問自答。
それによって得られるのは、無限後退。
生産性は皆無だ。
孤独は何も生み出さない。
うー。
1人は辛いよ。
誰かと一緒にいたいよ。
人は1人じゃ生きられない。
それは俺自身が1番よく分かってる。
今までずっと友達も恋人もいなかったから、本当に身に染みてる。
でも、人と繋がりたい。
人と触れ合いたい。
人に興味がないくせに。
ご立派な矛盾。
こういった俺の異常性は、先天的な障害のせいだから、もう治らないのは分かってる。
絶対に完治しない。
腕を失った人が、腕を生やせないように。
心の一部を失った人は、心を取り戻せない。
義足で補うことも出来ない。
失った腕の部分が痛み出すように、失った心が痛みだす。
幻肢痛。
痛みが酷い。
だから慨嘆する。
……ま、こんなイタイポエム的なこと言っても何にもならないんだけどさ~
後半部分は徳島の街に入ることになり、半分観光気分で楽しかった。
徳島ラーメンも食べれて、美味しかった。
ほんの数日ぶりの街が、1ヶ月ぶりの街に思えて、妙に喜びの声をあげたくなった。
やはり文明は最高である。
旅をする分にはな。
そこで生活するとなれば、途端に苦痛に早変わりなんだろうけど。
今晩の宿は24時間サウナ……まあ健康ランドと思ってくれればいいよ。
足の療養も兼ねて、広い風呂に入った。
生き返るぅ~
最高ッス!!
風呂から上がった後、さっそく足を確認した。
マメの中に溜まった組織液が原因で、風船みたいに皮が膨らんでいる……
見た目がグロイ……
てか感覚がないんだけど、大丈夫かこれ?
組織液を針で全部抜いて、街の薬局で買ったバンソーコーをつけてやった。
これで少しはマシになるだろう。
……なるといいな。
いや、気合で治すッッ!!!
ちなみに、俺がお遍路で使っている靴はミッキーマウスブーツと呼ばれる、クソ重たい軍用のブーツである。
感覚的には、普通の靴の3倍くらい重たい。
1時間以上履いてるだけで、足が疲れてしまう不便なブーツだ。
でもその代わりとして、頑丈で完全防水。
しかし重たい。
だからマメもジャンジャン出来る。
やっぱ履くのやめようかな、ミッキーマウスブーツ。
頑丈だから履いてたけどさ。
どうしようか?
徳島の街だから、靴屋さんもあるだろうし。
明日になれば、この街を抜けてまた田舎道に入ることになるしな……
そんなことを悩んでいる間に、ウトウトして寝てしまった。