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11月9日 ~歩きお遍路4日目~

小屋の中で目が覚める。

……また寝ている台湾ボーイに抱き着かれていた。

抱き枕みたいに。

おいおい、よだれが俺の寝袋についてんぞ……

でも、性格が純粋だから、怒る気にはなれないんだよなぁ……


BLな感じがするけど、俺はそんなの望んでない。

俺はちゃんと女の子がいいのだ。

台湾ボーイからそっと抜け出して、朝食カロリーメイトを食べて外に出る。


そういえば俺、ゲイにモテるんだよなぁ。

人生の中で5人くらいに告白されている。

しかも本気で。

外人日本人問わず。


だがしかし、何故か女性には不人気である。

告白は1人もなし。

いや、かっこいいとはお世辞っぽく言ってくれるんだけどなぁ。

う~む。

これも自分の持ってる障害のせいであろうか?


にしても、小屋から出たくないなぁ。

外に出るのが億劫だ。

体が疲れていて、とても重い。


でも、こういう善根宿は基本1泊だけしか出来ないんだよなぁ。

もう台湾ボーイに再会しないことを祈って、俺は11番目の藤井寺へ戻る。

彼とホモォな夜を過ごすのも、これで最後にしたいものだ。


そして俺は、藤井寺の敷地内にある12番目の寺への入り口へ到着した。

今日はお遍路の難所と呼ばれる、12番目の寺の焼山寺へ。

このお寺、お遍路で1番キツ~イ場所にあるってことで有名らしい。

山、である。

しかもそんじょそこらの山じゃないよ?

下手したら崖から落ちて死んじゃうような危険な場所でございます。


【水曜どうでしょう】という、大泉洋が主演する番組でバッチリ紹介されていて、なにやらアルプスの難所よりも危ないらしい。

健脚なら6時間。

弱い足なら9時間かけて登山しなくちゃいけない山と言われている。


ええ、はい。

登りましたよ、山頂まで。

坂道を歩き、時には岩場を登り、昨日の雨で濡れた坂道を転んで怪我したり。

蜘蛛の巣が顔面に張り付いたり、途中のベンチで休憩しようと思ったら30分くらい寝ちゃったり。

誰もいないことをいいことに、大声でジブリのさんぽって曲を歌ったり。

歌ってる途中で人とすれ違って、恥ずかしくなってウガーッって悶えたり。


いや、さんぽ歌って何が悪いよ!

俺はうさぎとかめとか、ポニョの歌とか、そういう純粋な曲が大好きなんだよ!!

だからクスクス笑うな、ちくしょう。


そんな感じで俺は、山で崖から落っこちるリスクも無視して駆けた。

いや、歌って恥ずかしかったからじゃないぞ?

まあそのせいか、5時間で山頂の焼山寺まで到着。

足のマメの痛みが麻痺するまで、スーパーハイパー頑張ったのだ。

お坊さんに豪脚ですね、と真顔で言われた。

若干引き気味な感じがして、なんかいたたまれない……


ま、異常者扱いされるのには慣れてるし、いいんだけどさ。

だって正真正銘の異常者だもん。

限界突破を無意識にしちゃう人なのだ。

発達障害者にはそんな性質もあるのさ。

過集中っていうのと同じだな。


山の中はというと、秋だからか動物とか野鳥とか生物的なナニカには出くわさなかった。

安全ではあるんだけど、ちょっとつまらないかもしれん。

本当ならここで歩きお遍路の旅から脱落する人が急増するらしいけど、俺は結構余裕……かな?


が、ここで問題が発生した。

ここで調子に乗ったのがいけなかった。

山頂に到着して、休憩して、午後1時を過ぎた頃だった。


俺は焼山寺で納経した後、そのまま下山して、ボロボロの足で峠を2つ越えて、道路をずっと下っていったのだ。

それが長いのなんの。

結局第13番目大日寺まで歩き通し(距離にして20キロの休憩なし!)。

最初から最後まで、合計約13時間、距離にして60キロ以上俺は歩き続けたのだ!


流石に疲れきったし、足はマメだらけでボロボロ。

おまけに今日は野宿だ。

だって旅館とか閉まってるもん。

お寺も門閉まってるもん。

外真っ暗だもん。


無計画に突っ込むからこうなるんだろうな。

いくら何でも死ぬって。

けど……俺ならやれる。

カナダのバンクーバーで、薬漬けのホームレスを警戒しながらダウンタウンの路地裏で寝たことより、遥かにマシである。

そんなクソで貴重な思い出に浸りながら、無理矢理コンクリートの上で寝袋に包まり、ブルブル寒さに震えながら眠った。


人目なんか気にしねぇし。

命が懸かってるなら、人間はなんでも出来る。

もし犯罪者が俺に近付いて来たら、逆に返り討ちにしてやる……なんて意気込みで星を見ながら横たわる。


……コンクリートがツメテェ。

通りの通行人からクスクス笑われてるような気がする。

ちくせう。

でも、星は綺麗だ。


弘法大師様もこうして寂しく眠ってたのかな。

昔の偉人の気持ちが、少しだけ分かった気がした。

昔の人も、こんな綺麗な夜空を見ているんだよ。

同じものを見てるんだよ。

だから、まあ、こんな経験もアリなんじゃないか?


自分の無様な姿にそんな言い訳をして、俺は寝た。

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