12月1日 ~歩きお遍路26日目~
午前4時半に目が覚めた。
……眠い。
いくらなんでも午前4時は早すぎる。
けど、起きなくてちゃいけない理由があるもんなぁ。
今日は、45番岩屋寺というお寺を目指さなくてはいけないからだ。
このお寺は山の中にあり、今いる久万高原町の笛ヶ滝が入り口の場所に近い。
そしてその45番への道は一本ルートになっており、寺に着いたらまた来た道を引き返さなきゃいけない。
つまりだ、笛ヶ滝へ一回戻ってこなくてはならないのだよ。
……打戻りだ。
なので普通に考えて、行きと戻りで2倍の時間がかかるルートなんである。
しかもアップダウンのある道のりなんだぜ?
時間がかからないわけがない。
しかも今日は連続で笛ヶ滝に泊まることはしたくないので(宿泊料金が高かった……)、久万高原町を出てそのまま46番と47番寺に行くことにしている。
その距離約30キロ。
さらに、ここの道も山越えである。
1日でどんだけ山を越えなきゃいけないんだよ!って感じなのだが、まあそれなりのメリットもあるんですよね、これが。
山越えをした先にある47番寺には、無料の通夜堂があるらしい。
これを利用しない手はないでしょ。
でも、お寺の敷地内に通夜堂があるので、午後5時以降は泊まれない。
そして通夜堂は予約が出来ない。
であるからして、出来るだけ時間を稼ぐために早起きするのは必然だった。
必要な準備を整え、午前5時に俺は宿を出発。
久万高原町を出て、早速山の中へ。
当然真っ暗な道を進むわけだが、それが死ぬほど怖かった。
街灯がないんだもん。
明かりがないんだもん。
……本当の闇の中を俺は突き進んだ。
風が木々を揺らす音しか聞こえねぇ。
視界はゼロ。
うえぇ……だから真っ暗な森の中は嫌なんだって。
森で遭難した記憶が蘇る。
あれはトラウマものだ……
途中で国道に出るけど、やっぱり街灯がない。
今日は曇りで星明かりも頼りにならないし、国道なので車も猛スピードでやってくる
さらに歩道がないので、いつ引かれてもおかしくはない。
命の危険に晒される道なのであった。
おまけに車道しかないトンネルまで存在し、やたら狭い上に歩道もない。
そんな所を通っている時に限って、大型トラックが何台も通っていく。
怖いよ。
死ぬよ。
いや、マジで。
割と一瞬で。
でもね、進まないと通夜堂に泊まれない。
死の恐怖を押し殺し、1時間闇の中を進む。
1時間経っても、全然夜は明けない。
おいおい、もう6時だぞ。
いい加減太陽が顔を覗かせてもいいんじゃないか?
そう思っても辺りは闇の中。
結局太陽が昇ったのは、それから1時間後の午前7時なのであった。
……遅すぎだろ。
そして、明るくなってきた頃合いの7時ジャストに45番の岩屋寺に到着した。
この寺は、俺の記憶に残る印象的な場所だったので、少し書いておこうかと思う。
岩屋寺は切り立つ岩壁のそばに建てられていて、寺の周りが先端のとんがっている岩だらけだった。
その岩の先端に雲がかかってて、なんか仙人が住んでそうな感じがする。
そんな、幻想的な場所なのだった。
まるで中国の秘境に来てる気分。
来たタイミングが良かったんだろうな。
もし今日が曇りじゃなくて晴れだったら、また違う印象を持っていただろうから。
いやぁ……
見たことのない景色で、少し俺感動しちゃったじゃないか。
岩壁には洞窟もあり、奥に複数のお地蔵さんが安置されていたりもした。
後は岩壁をハシゴで登れたり。
岩壁の中腹で絶景を望んだ時にゃあ、仙人気分になっちゃったぜ。
でも、俺には時間がない。
さっさとここで納経して、打戻りをしなければ。
ということで、来た道を逆戻りした。
戻る時は明るいので、道中の危険はそんなになかった。
でも歩道はないから、危ないっちゃ危ないけどね。
そしてトータル5時間かけて、俺は久万高原町に戻ってきた。
休憩もせず、俺は次の46番浄瑠璃寺へと急ぐ。
今日は急ぐったら急ぐ。
足がボロボロになっても構わない覚悟で、ペースを上げていく。
46番と47番は、愛媛県で1番大きい街である、松山市の外れに建てられている。
松山市は久万高原町と山1つを隔てている。
急いでここを越えなければいけない。
上り坂の国道を登っていく。
汗なんて気にしない。
足の痛みも無視だ。
ふくらはぎの痛み、治りかけてたのにまたズキズキしてきた。
明日にも響きそうで、うんざりする。
そんな調子で、山頂部分に到着。
そこから国道を外れて、山の中を下りながら突っ切っていく。
国道を通って松山市に行くより、山の中を下っていった方がショートカットになるのだ。
前日雨が降ったせいで土が泥に変化していた。
滑って転んだら最悪骨折だ。
もし骨折したら、お遍路を中断しなくちゃいけなくなる。
でも、そんなリスクを承知で俺は駆ける。
野宿するしんどさが、どうしても怖くって。
なんとしても、今日は通夜堂に泊まりたい。
体を休めたい。
外の冷たさが嫌いだから。
ビクビクしながら寝るのは、もう嫌だから。
少なくとも、今日は勘弁願いたいんだ。
幸い俺は怪我もせず、無事に下山。
麓部分にある46番浄瑠璃寺、通夜堂のある47番八坂寺へ午後2時に到着した。
……気合いを入れすぎて、早く到着してしまった。
ああ、こんなことならもう少し宿で寝ておけば良かったんだろうな~と思ってしまう。
今更後悔しても、仕方ないことなのにね。
さて、俺は八坂寺のお坊さん(超イケメンのお兄さんだった!!)に通夜堂で宿泊する旨を伝えて許可を取り、寺の敷地内にある小屋にお邪魔した。
ああ、やっとここで眠れる。
ここは風呂がない。
なので、夕食を食べるくらいしかやることがない。
そして寝るのみだ。
いや、よく見ると小屋の壁にプラスチックの柔らかい板が張られていて、歩きお遍路さんの落書きが自由に書けるようになっていた。
歩きお遍路さんだけが書くことの出来る、専用のメッセージボードだった。
そこにはやっぱり色々なことが書かれていて、大変だったとか、お接待を受けて嬉しい!とか、お遍路に絶望したとか、旅をしてたら可愛い彼女が出来ました!ありがとう弘法大師様!とか(リア充爆発しろ!)、様々な想いがそこに記されていた。
俺もそこに一言、感謝するぜ……お前達と出会えた、これまでの全てにッ!!! と書かせていただいた。
今の俺の気持ちです。
ああ、眠い。
俺は睡魔に負けて、布団に倒れこんだ。




