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11月24日 ~歩きお遍路19日目~

朝の4時00分に起床した。

俺はロングスリーパーだから、もう少し寝ていたかったが仕方ない。

早速起きて身支度を整える。


今回の宿は連泊素泊まりなので、食料以外の荷物は全てここに置いていい。

OH!

リュックがカルイヨ!!


すんげえ!!

まるで、重しを付ける修行から解放されたかのように、軽々と動ける!!

羽が生えたかのようだ。

こんなに軽い状態で外に出れるなんて……イヤッホウゥゥ!!!!


こんなハイテンションだが、外はまだ真っ暗である。

深夜と変わらない暗さ。

近所迷惑にならないようにしないとな。


そして外に出ようと宿の共有スペースに入ると、なんとテーブルの上に置き手紙とおにぎりがあった。

手紙を読むと、どうやらお接待らしく、『これを食べて打戻り頑張ってくださいbyおばちゃん(*^▽^*)』とのことだった。


……おばちゃん?

ああ、この宿のオーナーさんか。

ここのオーナーさんには昨日会ったんだけど、60歳のくせにすんごい元気で優しいの。

自分の人生を楽しんでるって感じで、本当にうらやましいぐらい。

人生エンジョイしてんな~ってね、そう思ったよ。


こんな四国の端っこで宿を経営して、お遍路さん相手に色々お世話するのがたまらなく好きらしい。

外国人にも日本人にも関係なく社交的で、宿には色んな国籍の人とパシャッた写真が飾られている。

どれも、太陽みたいな笑顔です。

誰もかれもが笑っていた。

素敵だと思った。

うらやましいと思った。

そんな人が、俺にこういうお接待をしてくれること。

オーナーさんの幸せを、おすそ分けしてもらっているみたいで。


……感謝しかない。

ありがとうございます。

おにぎりを作った本人はいないけど、その場でペコリとお辞儀して外に出た。


ああ、お接待文化万歳だ。

でも、この先こういった昔ながらの文化は、後世に残っていくのだろうか?

生き残ることが出来るのだろうか?


前に俺はお遍路の文化は廃れていくと思っていた。

四国の若者達は、お遍路さんに対して敬遠している部分があるから。


でも、残って欲しいな。

純粋にそう思う。


ま、今はとにかく38番寺まで歩くだけだ。

歩かないことには何も始まらない。

歩きお遍路における真理である。


ということで、おにぎりをリュックに入れて出発進行。

寺のある半島へのルートは3つあって、西の海岸線ルート、中央の山越えルート、東の海岸線ルートから選べる。

もちろん山越えルートが1番キツく、2番目に西の海岸線ルートがきつい。

俺が来たのは東からだから、西から行ったら遠いいのだ。

つまり……


俺は1番楽な東の海岸線ルートを選択。

ん?

お遍路は修行だって?

別にいいじゃないっすか。

人間少しは楽をしなきゃな。


そして俺は、東の海岸線を延々と歩いた。

俺は思ったよ。

灼熱の最御崎寺……その再来だって。

海のそばを何時間も歩くだけの地獄のような道。

それと似ていた。


今回片道が20キロだから行きは楽だ。

だが、打戻りなので帰りがある。

合計40キロ。

いつもの距離ではあるのだけど、来た道をそのまま戻るってなんかな……

同じ景色を見ることになるから、主観的には長い距離を歩いているような気がするような。

行きはヨイヨイ帰りは怖い、なんてことにならなきゃいいが……


その言葉の通り、行きはヨイヨイだった。

午前10時に寺へ到着。

ついに俺は、高知の一番南までやってきた。

最南端だ。


37番の寺から、数日かけてここまでやってきた。

だから最南端の景色が……とても感慨深く思えて。

でも、周囲には車やバスで来たお遍路さん達がワラワラいらっしゃる。

疲れ果てている俺とは違い、老若男女全員お元気なのであった。


何だかなぁ。

いや、いいんだ。

人は人。

俺は俺だ。

俺と他人を比べても、何にも意味がない。

比べるなら昨日の自分とだろう?


人が人を比べるこの時代。

落ちこぼれの俺は、普通の人達と比べられて。

怒られて、怒鳴られて、時には暴力を振られて。


自分と人を比べると、どうしてもと思う。

俺は普通の人間と比べて、欠点が多すぎる。

死にたくなってくる。

同時に、生きたくもある。

……矛盾だ。

だけど、矛盾を抱えて生きるのもまた、人の在り様だと……俺は暴力を受けて気が付いた。

言い換えれば、暴力を受けるぐらいしないと、そんなことにも気が付けない人間ってことなのだが。


人間は矛盾の塊。

そんなこと、普通の人間は自然と気が付けるのにね。

それも、俺の欠点。


……気をとりなおして、四国最南端の寺で参拝した。

本堂と大師堂、数日ぶりにみたな。

参拝の仕方ってどうやってたっけ? と思い出しながら、無事にやるべきことを完了させ、納経してもらった。


寺の中で、椅子に座って休憩する。

お接待でもらったおにぎりを食す。

うん、梅干しが入ってる。

すっぱい。

でも、おいしいな。


車お遍路さん達はみんな、寺の傍にあるレストランで食事していた。

……涙がチョチョ切れそうやで。

いや、この人達は歩きお遍路してないから、お接待をもらえないんだ。

おばさんの心のこもったあったかい(物理的には冷たい)おにぎりは食べられないんだ。

はは、俺は食えてるぞ。

ざまーみろ。

……言っててむなしいな。


腹を満たしたら、レッツ打戻り。

来た道をそのまま辿って、宿まで歩く。

辛い。

同じ景色が続いている。

飽きた。

もう嫌だ。

もうお遍路やめて家に帰ろうっかな?

そんなことを思いながら歩く。


歩く。

ひたすら歩く。

終いには、妄想に逃避しながら歩いた。

時々ハッと妄想から現実に帰還して、我に帰る。

道中どうやって進んだのか覚えていない。


……でも確認すると、結構距離が進んでいる。

ある意味楽だ。

でも危険だ。

車にひかれかねない。

でも妄想しちゃう。


そんなことを繰り返していると、いつの間にか宿に着いていた。

……アスペルガーってこんな症状あったっけ?

よく分からん。


到着時刻は午後3時。

結果的には、合計10時間の打戻りルートとなった。

まあ、上々の結果だろう。


そしてお風呂に浸かりーの、ダラダラしーので、あっと言う間に午後8時。

ゲストハウスの共有スペースに、週刊少年ジャンプがたくさん置かれていて、貪るように読みふけってしまった。

ハンターハ〇ターはまだ連載してないかぁ。

うむ、残念。

あの漫画、中学生の時に読んで以来、すごくハマってるんだけどな。


そろそろあらかじめ買っておいた非常食のカロリーメイトを、夕食代わりに食べようかなと思った頃合い。

オーナーのおばさんが、俺の個室までやってきた。

こんこんとノックする音が聞こえて、ドアを開ける俺。

ドアの向こうには、ミスサンシャインの呼び名を与えるかどうか迷うほど、眩い笑顔がそこにあった。


うお、眩しいぜ。

ちょっと光源弱めてくんない? おばさん。

心の中でわけの分かんないことを呟きながら、あいさつする。


「お腹、すいてない?」


おばさんの、ぽかぽかなその言葉。

俺の耳に届くと同時に、おばさんが何かを差し出す。

その手には、豪華な夕食を乗せたトレーがあった。


サラダと白米とサバのお寿司。

豪華だった。

打戻り、本当にお疲れ様と、おばさんが丹精込めて作ってくれたものだった。

おばちゃんは笑顔だった。

笑顔で、「レストランに入ってく人を見ると、どうしてもおなか減るでしょ?」と言った。


ああ、分かってたんだ。

俺がおにぎりしか食べてないこと。

貧乏旅をしていて、レストランに入る余裕がないこと。


ボロボロの身なりから察してくれたのかもしれない。

俺の不愛想な態度で分かったのかもしれない。

ただ、このおばさんは俺のことを分かっていた。


素泊まりなのに、わざわざおばさんは俺のために食事を作ってくれた。

それがとても嬉しい。

これは偽りの優しさかもしれない。

俺という人間を本当に知ってしまえば、みんなと同じように嫌うかもしれない。

この優しさは、今だけのものかもしれない。

……それでも良かった。


人の良心とは、そういうものなのではないだろうか?

遷ろっていくものなのだ。

そういう当たり前のことを、俺はまた知ることが出来た。

おばさんのおかげで。


普通の人間に、少しだけ近付けたような。

こんな感覚、初めてだ。

ただでさえ、お接待におにぎりを作ってくれたのに。


大岐の浜の民宿は最高だ。

断言しよう。


あ、食事は大変美味しく頂きましたです、はい。

うまうま。

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