11月19日 ~歩きお遍路14日目~
午前4時、サウナの休憩室で目を覚ます。
隣でデブなおっさんが超ウルサイ寝言を言いながら、俺の方に顔を向けて寝ていた。
息がくせえ……
あれ?
これってデジャヴじゃね?
前に似たようなことがあったような……
まあいいか。
寝床から起きて、骨をボキボキと鳴らす。
ああ、体が固いな。
温泉宿に泊まって、リフレッシュしたはずが、あまりされていない。
それと、ふくらはぎに加えて右足首が痛くなっていた。
足の裏の痛みがマシになったと思ったら、これかよぉ。
俺が苦痛から解放される日はまだ遠いいらしい。
なんでこんなに痛いんだろう?
そんなに足に負担かけてたかなぁ。
外に出ると、今日は雨が降っていた。
正直外には出たくない。
けど、行かなくちゃな。
宿を出たのが午前6時。
今日は高知市内から出発して、32番禅師峰寺と、33番雪蹊寺、34番種間寺、35番清瀧寺で納経する予定だ。
総距離は多分30キロ~40キロ程度。
湿気で着ているカッパの内側が濡れて、またしてもデジャヴな不快感。
汗と雨が混じって、すごく不快だった。
このカッパ、もう捨てようかなぁ。
そう思いながら、悶々と歩いていく。
俺には歩く以外の選択肢なんか残されていないからだ。
でも、33番の雪蹊寺に行く頃には雨が止んでくれた。
で、その雪蹊寺なんだけど、その寺に行くには2つのルートが存在していると言われている。
禅師峰寺から雪蹊寺へ行くには、浦戸湾って場所を渡る必要があるらしい。
つまり海を越えなきゃいけないってことだ。
雪蹊寺は半島の中に建設された寺なのだ。
渡し舟に乗って行くルートと、橋を渡って行くルートの2種類あるんだけど、橋を渡るルートだと結構遠回りになってしまうらしい。
今回の四国お遍路は、乗り物には一切乗らず自分の足だけで八十八箇所まわり切るって決めてたので、遠回りでも橋を渡ろうと考えてた。
でもさ、地元の人に話を聞くと、昔は半島までの橋が無かったらしい。
となると、弘法大師様は渡し舟で浦戸湾を渡っていたはずなので、昔ながらのルートで考えれば渡し舟を利用するのが正しい事になる。
なのでやっぱり楽な渡し舟に乗ろうと船着場へ向かっちゃう。
俺、楽なのだ~い好き!
船は1時間に1便出航していて、時間的な都合に優しい運営だった。
しかも料金は無料で、車もタダで乗せられる。
だから、歩きお遍路さんはここを利用するんだって。
船の方が速いし楽だからね。
その船へ乗る時に、歩きお遍路さんと一緒に途中まで寺へ行くことになった。
なんか相手の方から一緒に歩かないか?って誘われた。
年齢52歳の子持ちのおっさんだった。
息子は大学生で、なんかヤンチャしてるらしい。
息子さんと大して変わらない年齢の俺が、歩きお遍路していることを少しだけ不思議そうにみていたな。
全国各地の風景を写真に収める仕事をしてるんだってさ。
その仕事の関係で、お遍路の写真をとっているらしい。
ああ、カメラマンってやつね。
そのおっさんは船に乗っている間もずっと、カメラをパシャパシャやっていた。
ついでに俺もパシャパシャ取られてしまう。
ツイッターに載せていいか?と聞かれたので、別にいいよと答えておいた。
その人の名前を検索したら、結構するほど有名だったので、俺の顔がかなりの人に見られることになる。
まあ、別にどうでもいいけど。
おっさんがパシャパシャついでに、ここら辺の風景の説明をしてくれた。
まるでガイドさんみたいに。
迂回する形で浦戸湾を渡る橋は浦戸大橋と呼ばれていて、なんと全長1480メートルもあるらしい。
ただ渡るだけで、どんだけ労力がかかるんだよって話。
対して船は座っているだけで、しかも10分以内に到着出来る。
ふぅ、船を選んで本当に良かったぜ。
あとはどうでもいい話をしながら、雪蹊寺に到着。
当然おっさんも一緒についていく。
人と話しながら進むと速い速い。
やっぱり人と歩くっていいなぁ。
……食事を奢ってくれたあの元サラリーマンのおじさんを、ふと思い出した。
あの人、今どうしてるんだろうな?
1人で黙々と歩いてんのかな?
そして無事に雪蹊寺に到着。
ここでおっさんと別れて、納経を終わらせる。
34番の寺をさっさと攻略しに、せっせと歩き出す。
途中でオオスズメバチに遭遇。
俺、逃げまくる。
ハチは追いかけまくる。
おかげで車にはねられそうになる。
俺、ドライバーにすんごい怒られる。
怒られてる途中で、またハチが来襲する。
泣きっ面にハチである。
酷い話だぜ。
そして本日最後の35番、清瀧寺へ。
この寺に行く途中、社会人3人の女性がアウトドア風な格好で歩きお遍路しているのを見たので、話しかけてみた。
いや、ナンパじゃないっすよ?
なんでも会社仲間で歩きお遍路をしているらしい。
今回で2回目なんだと言う。
女性が歩きお遍路……すげえな。
メンバーはぽっちゃりOL美人1人。
身長180センチの元バレー選手1人。
ベジタリアンのほっそり美人1人。
というなんとも個性的な女性達だった。
俺、シェアハウスで女性と暮らしたことあるけど、歩きお遍路するような根性のある女性は初めてだ。
年齢は教えてもらえなかったが、その人達は大体30から40歳くらいかな?
歩きお遍路だというのに、バッチリメイクもしていらっしゃる。
汗で化粧崩れないのか?
お遍路してる理由を聞くと、ただなんとなく行きたかったからとおっしゃられた。
……女ってスゲェな。
なんだか楽しそうに談笑していたので、俺にしては珍しく積極的に話しかけてみた。
俺みたいな若い男がお遍路しているのが気になったのか、「なんか嫌なことあってお遍路してるの?」女性陣から聞かれた。
まあ、若くしてお遍路する理由って、殆ど影のあるものばかりだからな。
社会人としてうまく適合出来なかったとか、病気を抱えていたりとか、障害者だったりとか、死に場所を求めてたりとか。
いや、ちゃんとポジティブな理由でお遍路してるのもいるよ?
けど、俺はちょっとだけ影があるね。
でも、そんなことは人に話すものじゃない。
だから嘘を吐いた。
お遍路してる時に嘘を吐いてはいけないってお遍路ルールがあるらしいけど、別にいいよな?
人に迷惑をかけるわけじゃないし。
そうこうして一緒に歩いているうちに、無事に清瀧寺まで到着した。
いや、うん。
女性と一時でも一緒に旅出来たし、今日は貴重な体験が出来たな。
最近してなかったお寺の観光を女性達としてみる。
きゃっきゃうふふな感じじゃなくて、学者がお寺を静かに鑑賞するみたいな感じ。
騒がしい若者とは違って、落ち着いてるんだよな。
アダルトな雰囲気に包まれながら、お寺の観光を満喫した。
ここで女性3人衆と別れることに。
楽しい道ずれだったなぁ。
女性にも色々な人がいるってことがよく分かったんだぜ。
そして今日の宿へ。
きょうは清瀧寺の敷地内にある、無料の通夜堂で寝ることにした。
また、お寺で寝るという貴重な体験が出来る。
それだけで嬉しい。
今日の宿に荷物を置いて、納経をしてもらった。
宿の隣には弘法大師様の大きな像が建っている。
その横で寝るのはちょっと恐縮だが、同時に見守られている感じもする。
そのせいか、今日はリラックスして眠ることが出来た。




