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11月14日 ~歩きお遍路9日目~

今日到着したお寺は1つもなし。

1つも……なし。


次の目的地が、室戸岬という四国の南の端っこ。

そこまでは海岸線沿いにある国道をずっと歩いていくことになる。

その距離が70キロ以上もあって……すごい遠い。


とても1日じゃあ辿り着けないよ。

歩けても1日40キロくらいだよ。

おまけに今日は小雨だし。


ずぶ濡れにはならないんだけど、髪がしっとり濡れて気持ち悪いだろうなぁ。

それに俺、天然パーマだから髪がアフロになっちゃうよ。

くせ毛は雨に弱いんだよぉ……

昨日疲れ切ってただけに、今日の雨はちとキツイ。

モチベーションダダ下がりのまま、着替えて支度を整える。


時刻は午前7時。

普通、民宿はこの時間だとオーナー起きてると思うんだけど、おばちゃんはグーグー寝てた。

チェックアウトの確認も出来ず、そのまま外へ出た。


で、ここからちょっと幸運な出来事が起こった。

ここの宿に一緒に泊まってた人が同じ歩きお遍路らしくて、偶然同じ出発時刻で鉢合わせたのだ。

これからの目的地も一緒で、どうやらその人は俺と歩きたいようだった。


もちろん断るわけがない。

色々な人と関わることも、大事な思いで作りの1つだ。

これからよろしくお願いしますってあいさつをして、一緒に歩き出した。


その人は眼鏡をかけたおじさんだった

歳は60歳で、定年退職した元サラリーマンらしい。

けど、その歳で歩くペースは俺と同じ。

だから体力はあるよね。


神奈川県の横浜から来たらしいけど、残念ながらあんまり横浜に詳しくない。

テレビでよく聞く街ではあるんだけどね。


今日の道のり30キロ程を、一緒に楽しく会話しながら歩いた。

お遍路のブログで紹介されていた、ひこうせんって有名なカフェに入って、一緒にお接待を受けたり。

歩道に大量のカニがいて、足で潰さないように慎重に進んで、結局ズッコケたり。

海をバックにおじさんと記念撮影したり。

途中にあった海の家みたいなレストランに入って、お昼ご飯をご馳走してもらったり。


おじさんとは会話が弾んだなぁ。

昨日泊まったあ〇まやの宿は、やっぱり接客態度が悪いね~って愚痴を言い合ったりした。

俺がバックパッカーやってたことを言うと、本当にすごいことだよ、それはって真剣に褒めてくれたりもした。


やばい。

楽しい。

人と旅するって、こんなに嬉しいんだ。

孤独って、本当にダメだね。


おじさんに対して、興味を持てないことが本当に残念なくらいだ。

会話だけを楽しいと思ってしまう俺の精神性を、本気で恨みたいと思った。

でも、だからこそこの会話を純粋に楽しみたいって思った。

だって本当におじさんといると楽しいから。


人はひとりぼっちなのと、お腹が空くのが1番不幸だと思う。

だからさ、今日は本当に嬉しくて、足も全然軽かった。

マメが潰れた痛みも忘れるぐらいだった。

でも、やがてお別れの時間はやってくる。


おじさんが今日泊まる場所は、俺の宿泊先とは違う民宿だった。

今日俺は善根宿に泊まる予定だ。

おじさんは民宿の前で止まって、俺に別れの言葉を言ってくれた。


とても楽しかったよって。

久しぶりに若者と話せて、タメになったって。

それで、最後の最後におじさんは話してくれた。


自分が自殺願望者だったこと。

死に場所を何となく求めてお遍路をしてたこと。

生きるのが辛いこと。

静かにこの世を去っていきたいと思っていること。


でも、もう少しだけ頑張ってみるよって言ってくれた。

もう2度と会わないだろうけど、一生このことは忘れないって言ってくれた。

俺も、絶対に忘れないって言った。


正直、おじさんのことを忘れない保証なんかどこにもない。

数日後には忘れてしまっているかもしれない。

でも、そのことを悲しいことだと思える自分がいる。

それだけで、今は十分だと思った。

忘れないように努力しようと思える自分がいるだけで、そんな言葉を言ってもいいんじゃないかって思った。


そして、手を振って別れた。

もう2度と会えない。

ちょっと涙が出た。

ああ、俺らしくないなぁ。

いつもはもっと冷たいのに。


……ダメだな。

気持ちを切り替えなきゃ。


おじさんとの思い出を反芻しながら、俺は次の宿泊先に到着した。

今日の宿は明徳寺っていうお寺だった。

四国のお寺には通夜堂って呼ばれてる小屋があって、歩きお遍路の人が無料で泊まれるようになっているらしい。


まずはここのお寺のお坊さんに許可を取ることにした。

お寺の目の前まで行くと、そこには1匹の柴犬が寝てた。

なにこれ、お寺に犬がいていいんだ。

へぇ……


犬をなんとなく撫でてみる。

お、何にも抵抗しない。

随分人なれしてんな。

少しなでなでしていると、目の前にお坊さんがやってきた。


そのお坊さんは、ちといかつい顔をしていて怖かった。

髪を剃ってなかったら、ヤクザに見えてただろうなぁ。

言葉使いも豪快で、初対面の俺にも申し分なし。

笑い声に至ってはガハハハ!!! ……なんだぜ?

どこかのアニメキャラか何かですか?

例えるなら、鋼の錬金術師のアームストロングかなぁ。


いや、こういうタイプは嫌いじゃないんだ。

本音で話してくれる人が多いから。

発達障害者は、自分の気持ちを正直に話してくれる人と相性がいい。

嘘を吐かれると、何が正しいのか分からなくてパニックを起こしてしまうことがあるから。


俺がここに泊まらせてくださいって頼んだら、そのお坊さんは「ガハハ!! じゃんじゃん使いな!!」ってこれまた豪快に承諾してくれた。

そのついでに握手を交わす。

おおう……すげぇ握力。

80キロぐらいはありそうや。


で、お寺の敷地内にある小屋に案内される。

小屋の中はわりかし綺麗だった。

女性でも泊まれるくらいだ。

風呂はないけど充電出来るし、ストーブもある。

外と比べたら、雲泥の差だな。


明日は24番目のお寺である、最御崎寺ってところに行く。

読みは、ほつみさきじ。

ごめん、最初は全然読めませんでした。


距離は約40キロ。

スマホによると、明日は晴れるって言うし、きっと大丈夫。

俺なら行ける。

頑張れる。

俺は孤独じゃない。


小雨がポツポツ屋根に落ちる音を聞きながら、俺は就寝した。

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