9.迫り来る前にやつを倒す
いろいろ意気込んではいたものの、やることは先に終わらせようという意見の木山。
PCでやることがあるから邪魔な要素は先に排除したいという小城。
そして今を生きたい俺。
少数派は多数派には叶わない運命なんて嫌だと嘆くも悲しく。
俺は「やること」、「邪魔な要素」に立ち向かうことになった。
各教科の先生から配られた紙に従い、教科書・問題集をリュックに詰める。
「せっかくの夏休みが...」
重い腰を上げ、木山の家へ向かう。
「おす」
先に小城は来ていたようだ。二人とも机に向かって問題集を解いている。
「うす」
「(コクリ)」
挨拶を交わし俺も机に向かう。
クーラーが効いた部屋と言えど聞こえてくる蝉の声、窓から入る日差しは夏を忘れさせることはできない。
しかし集中していれば聞こえてくるのはノートにペンを走らせる音と教科書を捲る音。
俺も課題に取りかかるとしよう。
......。
...。
「無理だ。もうペンすら持てない」
「そんなんでどうすんだよ...」
「非力」
始めること30分、ペンを手から離す。
まずは30分も頑張った自分を褒め称えたい。
「木山は進路どうするんだ?俺は大学行くつもりだが」
ちょっとまじめな話をすると本来の目的から逸らせる持論に従い、話を振る。
「ならもっとお前は頑張れよ...。進路なぁ-。まぁ俺も大学いくかな」
「そうなのか」
「あぁ。時期も時期だしなぁ...そろそろ俺もちゃんと考えねばとは思っているが...」
木山は天井を見上げる。
「...別に特別やりたいこともないしなー」
「なー」
二人して短い溜息をつく。
何を隠そうこの3人の中でダントツで俺は勉強ができない。
木山も小城も極端に1教科ができないだけで後は上位レベルの成績だ。
俺は常に平均のボーダーラインを反復横跳びをしている。
成績も悪ければやりたいこともない。
夏を満喫しようとしていても、どうしても脳裏には将来のことが過ぎる。
「小城も大学か?」
「専門」
「まじか」
初めて聞いた。そういえばこんなまじめな話を俺たちがするのはほぼなかった。
「大学かと思ってたわ。IT系か?」
「(コクリ)」
木山も知らなかったみたいで、意外そうな表情を浮かべている。
「いろいろ考えてんだなぁ。お前らも」
「まぁ高2だしな...何なら予備校に通い詰めの奴も普通にいるぞ」
「うへぇ」
何故かしらまじめな空気が流れ、その後夕暮れ時までみんな集中して取り組んでいた。
「...お前は何やってんだよ」
「迷路書いてる」
俺を除いて。
「まず課題をやれ!去年みたいに泣きついても助けてやんねぇからな!?」
木山が声を荒げる。
「その時は今年も頼むぜ!木山!」
「何のための勉強会だ馬鹿野郎!小城も何か言ってやれ!」
「迷路やる」
「おい!」
小城は乗り気だった。
ほぼ出来ていた紙に書いた迷路を完成させ、小城へ渡す。
「そう言うがな木山。これを見てくれ」
俺は一冊の問題集を木山に渡す。
「あ?...終わってるじゃねぇか」
「ふっ。だろう?」
「意外だな。お前国語好きだったか?」
得意という聞き方をしないのは少々むかつくが、まぁいい。
「現代文だけな。古典はだめだ。別言語だ」
「へぇ。まぁこの調子で他のも少しずつでもやってけよ?」
「まぁ善処しよう」
文章を読むのだけは、あまり苦ではない。というのも最近になってからだが。
「できた」
小城から紙を受け取る。
「はやいな!?少しはかかると思ったんだが」
「容易」
「くそう!」
渾身の出来だったのだが。
そんなこんなで再び雑談が再熱していった。
「...俺も集中切れたわ。結構時間経ったし今日はこの辺にしとくか」
「んじゃ飯いこうぜ!らーめん!」
「味噌」
木山家を後にし、3人でらーめんを食べて帰った。
いつもより体にらーめんが染みた。
そんな気がした。