8.本当の夏休みスタート
かなりご無沙汰です。
「っ~~~夏休みだ!」
「...そうだな」
「...」
1週間の長き戦い(補習)を終え、正式に俺の夏休みがスタートした。
とりあえず木山と小城の二人を家に集合させ、これからの計画を立てる。
「俺がこの時をどれだけ待ち望んだか...」
「...そうだな」
「...」
一人白熱する俺とは裏腹、NPCの如く同じ言葉しか喋らない木山と完全に感情を失っている小城。
「どうしたお前ら!もっとテンション上げていこうぜ!」
「...だったらよ」
蝉の声が一層大きくなる。大合唱とでも言おうか。
「何でエアコンつけてねぇんだよ!」
「...何故」
気温34℃。外は素晴らしすぎるほどの快晴。炎天下の中は蝉の大合唱しか聞こえず、
あまりにも暑すぎる故か、外には人っ子一人見当たらない。
「馬鹿者。この暑さを体感してこその夏休みだろうが」
そういう俺ではあるが、額からは大粒の汗が流れ、シャツと背中は見事にくっついている。
やせ我慢をしてるわけではない。夏という季節を感じるためには、文明の利器など借りずに
己の体一つで向かい合ってみろという意思を込めてだ。
「間山がいきなり何しだすか分かんねぇこと暑さで忘れちまってたわ...今度から俺の家集合で」
「承知」
「なにおう!?」
やれやれといった表情で木山は立ち上がり、俺の団扇を仰ぎながら全開の窓に腰掛ける。
小城はいつのまにか携帯型扇風機を顔に当てていた。長い前髪が暴れている。
『お兄ちゃん?入るよー』
蝉のオーケストラに完全に意識が行っている所を、妹のドアをノックする音でふと我に返る。
「はいよー」
「お菓子とジュース持ってき...暑っ!?」
入ってくる瞬間に面白いくらいに顔が変化した。
我が妹ながら見ているだけでおもしろい。
持ってきたものを中央のテーブルに置く。
「バカじゃないの!?木山さんと小城さん来てるんだからエアコン付けなよ!」
瞬間説教が始まった。
「お邪魔してます」
「(会釈)」
「いらっしゃい。ごめんね...ほんとバカ兄が...」
やれやれといった表情で綾はエアコンのリモコンを手に取りスイッチを入れ、窓を閉める。
「おい!綾!何てことすんだ!」
「こっちのセリフよ!」
「いいぞーもっと言ってやれー」
「同意」
その後綾のありがたいお言葉を10分少々頂き、部屋が涼しくなり始めたころに部屋を出て行った。
「...嵐は去ったか」
「原因はお前だ」
「元凶」
ようやくみんなの頭も回転し始めたのか、互いに夏やりたいことを共有し始めた。
プールやら、海やら、虫取りやら、花火やら...。
こうした計画を立てているだけでも白熱していき、俺たちの計画会議は終了した。
「じゃあな」
「また」
「おう」
家から出て、二人を見送る。
気付けば空はオレンジ色になっており、暑さは残るもののかなり過ごしやすくなっていた。
そんな空を眺めながら、ふと物思いにふける。
これほどワクワクする夏休みはいつ以来だろうか。
やれること全部やって、誰よりもこの夏休みを楽しんでやる。
そう思った。