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気ままな旅

作者: 鮎弓千景

親愛なるキャットフードサービスさんへ。

一周年おめでとうございます!

拙いものですが、喜んでいただけたら嬉しいです!


 気ままな旅



 野良猫の世界はいいものだ。


 春には桜の木に登って特等席でお花見をする。下を見てみれば、大人や子供達がどんちゃん騒ぎ。夜まで流れる音楽につられて、尻尾を揺らす。


 夏には塀や屋根に登れば、夜空に大きな音と共に綺麗な大輪の花が咲く。これには少し身構えてしまうけど、慣れればなんてことない。


 秋には葉が紅葉し、様々なところから美味しそうな匂いが漂ってくる。一声鳴いて近づけば、残り物を分けてくれる。


 そして冬にはーー



 「ーーくしゅっ」


 寒さからくしゃみが出る。

 潮風が吹く街に来たのはいいが、今日は一段と冷えるみたいだ。僕は身を震わせて暖かい軒下に体をねじ込ませた。

 ペロペロと毛並みを整えていると、空から白いものが降ってきた。雪だ。


 「にゃぁー」


 軒下から顔を出せば鼻先に当たる冷たさに驚いて、思わず引っ込める。

 

 『いーしやーきいもー、おいもー』


 割と遠くないところで車から流れるボイスが聞こえてきた。次第に漂ってくる甘い匂いに、僕は鼻をひくつかせる。


 ぐるるるる……と空腹からお腹が鳴る。でも外は雪が降っていて、この暖かいところから出たくない。

 寒さへの葛藤が体を引き留める。


 「あら、可愛い猫さん。どこから来たの?」

 「シャーッ!」


 いきなり現れた軒下を覗く人間に、近づくなと威嚇する。


 「ごめんね? びっくりしちゃったね」


 いくら威嚇しようが、その人はどこにも行かない。むしろ触ろうと手を伸ばしてくる。


 「おいで。そこにいたら寒いよ?」


 余計なお世話だというように、さらに奥へ後退する。野良猫には野良猫なりのプライドというものがあるのだ。

 そう易々と人に馴れ合うつもりはない。


 しばらくすると、人間は諦めたのかどこかに行ってしまった。ようやく静かになったなと、大あくびをする。


 突然目の前に、何かの入ったお皿が置かれた。片目を開けて見れば、それを置いたのはさっきの人間だった。


 「お腹、空いたでしょ? お水も置いておいたから、気が向いたら食べてね」


 一言残して、今度こそいなくなってしまった。


 「ふぁぁぁ……」


 もう一度欠伸をして、そっとお皿に近づいた。鼻先をくすぐるいい匂い。ちょっとだけ舌先で舐めてみる。意外に美味しい。

 気づけば全てを食べてしまっていた。空腹は何ものにも耐え難いから。


 お腹も一杯になったところで、お昼寝をする。目を覚ませば雪も止み日差しが入ってきていた。



 軒下から出て、僕は再び冬の街へ歩き出す。人と馴れ合うことは苦手だけれど、あんなにも優しくしてくれるのなら少しくらい馴れ合ってもバチにならないだろう。


 僕は野良猫。決まった名前は無いけど、たくさんの人間からたくさんの名前で呼ばれている。

 野良猫である僕は、今日も自由気ままに色んなところに行って様々な人間や同じ猫達に出会うだろう。



 気まま一匹旅は、意外にも寂しくないよ。




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