始まり
生徒会、と聞いて君たちはどんなことを思い浮かべるだろうか? 生徒の代表? 部費等々の予算を握ってる権力者? 仲良し子好しのたまり場?
実の処、俺は今こうして生徒会長の座に収まってるわけだが、正直言って前述のイメージなど湧きよう筈もないのが現状だ。と、いうのも、この高校における生徒会の仕事は大概にして書類に承認判子を押すだけだからだ。予算の決定権なんてないし、施設の新設・改築申請もできない。文化祭とかのイベントだって、司会進行こそやらされることはあっても取り仕切るのは教師陣とその旗下委員会。更に言うなら、唯一のらしい仕事である判子押しだって、どうでもいいような決定事項のみという徹底ぶり。教師たちは生徒会に恨みでもあるのではなかろうか、って話だ。
まぁ、そんなわけで、こんな何の魅力もない生徒会には内申稼ぎの優等生すら立候補しなくなり、遂には完全推薦制という厄介払い選手権みたいなことになってしまったわけだ。で、回を重ねてフィックスされた結果、終了式に一年、つまり新二年の中から各クラス一人が生贄になる、というシステムが完成した。言わずもがな、その生贄の一人が俺だ。
さて。そんな生徒会の実状を知ってて嬉々と仕事をやる者なんているわけもなく、けれど仕事を任されている以上はやらないわけにもいかず、要するに俺は今日も一人の放課後を生徒会室で過ごしているのである。あぁ、俺の青春は何処にいってしまったのか? 最初から期待してなかったけども。
「失礼します」
ノックと共に声が響き、数秒遅れてドアが開かれる。そうなのだ、皆がシカト同然に敬遠しているとはいえ、仕事があれば人も来る。だから俺は一人であろうとも、生徒会長としての責任を果たさなければならない。別に、この来客の為に態と仕事をのんびりこなしているとかそんなことは断じてないので、気を付けるように。
「……返事ぐらいしたらどうなの、生徒会長?」
部屋に入ってきたのは風紀委員長を務める女子生徒だ。名前は赤石真萌-アカイシマモ-、俺と同じ二年生で、口調から想像できる通りに強気な女の子である。胸は小さい。
「今何か言ったのかしら、生徒会長さん?」
「いえ、何も言ってないです」
俺は目を合わせないように仕事をこなしつつ、対応する。今顔を上げたら絶対に死ねる自信があるね。超怖い。
「ふん、相変わらずブツブツと独り言? 気持ち悪い」
わかってるなら一々口にしないでくれ。自覚のあるこっちだって嫌な気分になるんだから。
「で、今日も他の役員はいないのね。いい御身分だこと」
申し訳ないが、そんな嫌味は俺たちには嫌味にならないわけで。なにせ最底辺だからさ、反骨するプライドなんて無いのだ。ってか、他のメンツがいたところで風紀委員長の都合にはなんら影響しないと思うし、いない方が視界に入らない分、快適なんじゃないかな。
「はい、これ。今度の風紀週間の予定案よ」
「はい、了解しました」
視界の端に差し出されたプリントの束を、顔も上げずに受け取る。いやいや、目を見て受け応えなんてできないから。相手は只の女子生徒じゃないんだよ? 可愛い女の子なんだよ? 緊張で固まるっつーの。
「……?」
はて? 御美脚を堪能しつつプリントを引き寄せようとするが、赤石は一向に手を放さない。いやいや、俺は何も変なことしてないよ? そりゃ確かにプリント越しに見える彼女の絶対領域に釘付けにはなってるけどさ。それは見えちゃってるだけであって俺から見ようと動いてるわけじゃないし、そもそも視線はちゃんとプリントに向いててピントを遠くに合わせてるだけだし、それが彼女にバレるわけないじゃん。
そ、そう、バレるわけないけど、まぁ、そこは、ほら、しょうがないし? 俺は紳士だし? 視線を顔ごと自分の手元に戻したりしちゃうわけで。ついでだから仕事もこなしちゃうわけで。実に効率的なわけで。
「チッ…」
ガッ、と音がして机が揺れる。赤石は舌打ちをした後、生徒会長用の執務机を蹴ったのだ。
「それじゃ、お仕事の邪魔してスミマセンデシタね、生徒会長様」
プリントを手放した彼女は乱暴に上履きを鳴らして、扉をバーンッと閉めて帰っていった。怖い。ちょー怖い。風紀委員だし、年上にも噛みつかなきゃならないし、舐められたら終わりってのもあるんだろうけど。今日のは一段と怖かった。いつもは不機嫌そうに眉尻おっ立ててるだけだからさ。
「さ、さぁ、仕事しよ、仕事。うん」
生徒会日常業務唯一の楽しみが終わったのだ。最早この部屋に居座る理由はない。さっさと判子押しを済ませて家に帰ろう。こんな単調作業、苦に思う間も無く終わらせてしまうさ。面倒ではあるけど。
「……俺一人に押しつけやがって、クソ役員共」
みんな事故ってしまえ。
**
side change 赤石真萌
**
ムカツク。ムカツク、ムカツクムカツク!
「あ~~もう! ほんっっっとムカツクわあの男!」
「マー、それはわかったから少し落ち着け」
「……、はーい」
親友のアンジェラがうんざりした声でアタシを嗜める。彼女の言葉は尤もだし、何より不快にさせてしまったのだからアタシは黙るしかない。でも、アタシの思いもわかってほしいのよ。
「マーちゃん、あの男、ってもしかして……?」
「そうよ、そう! 生徒会長の東明マキオよ! ってかアキラマキオって何よ!? どっちが名前かはっきりしなさいよね!」
もう一人の親友の有理がナイスパスをくれたので、アタシの熱は再上昇を始めるのである! 残念だったわね、アニー。今回は貴女に折れてもらうわよ。
「あの男、いっつもいっつも人の目見ないし、ぶつぶつ独り言ばっかだし、ゴーレムみたいな返事しかしないし! マジに最悪よ! なんであんな奴が生徒会長なわけ!?」
「生徒に投票されたからだろ」
「そういうことを聞いてるんじゃないの」
「でもね、マーちゃん。やっぱりみんなから選ばれたんだし、優秀な人なんだと思いますよ?」
「はんっ。どうだか。あいつ、絶対に自分以外の全員を見下してるわよ。目の前に人が立ってるっつのに見向きもしないんだから。挙句に自分の仕事を再開しやがるし。優秀なら何やってもいいんか、っての!?」
紙の上だけじゃ組織は回らないのよ!
「ア、アニー?」
「放っておけ、ユーリ。全部吐き出せばおとなしくなるだろ」
「えー…? いいのかなぁ…」
「っつーかなんでうちの学園は生徒会が選挙もない完全推薦制なのよ!? 実績主義だとでも言いたいわけ!? じゃあやっぱりアタシがあいつより劣ってるっていうの!?」
確かにあいつはアタシのクラスにいないけども!
「なんでそうなるのかな?」
「いっそ清々しいな」
「ぬぁ~っもう! 考えれば考えるほどムカツクわ!」
ついに我慢で抑えきれなくなったアタシは、近くにあった古臭い本棚を、感情をぶつける様に蹴りつけた。
「……え?」
「あ…っ」
「あー」
その本棚は簡単すぎる程にグラグラと揺れ、そして、アタシの方に倒れ込んできた。
「キャーーッ!?」
「マーちゃん!?」
「南無南無、っと」
アタシはギャグシーンよろしく見事に下敷きとなるのでした。幸いにも、古びた大量の本が覆いかぶさったり、棚も材質が脆くなっていたりで、痛みはあまり感じなかったけれども。
「うぅ、重い……」
「マーちゃん、大丈夫?」
「自業自得だ。埋もれて反省しろ」
反省するから助けなさいよー、薄情者ー。
「……はぁ、もう最悪」
二人のおかげで何とか本の山から解放されても、アタシの気分は変わらない。っていうか、さっきまでとは別の意味で最悪な気分に落ちてる。
「マーちゃん、やっぱりどこか痛めたんじゃないですか?」
「あー、違う違う。そうじゃないって。ありがと、ユーリ」
耳敏くアタシの呟きを拾ったユーリが心配を掛けてくれる。そのふんわりした優しいオーラだけで痛みも癒えるってものよ。
でも、アタシは心の中で溜息を深くした。今も二人はアタシが散らかした後片付けをしている。当たり前に、物体制御の魔法を使って、カビ臭い本や壊れた棚の破片を浮かせて。アタシはその光景を、邪魔しないように見ていることしかできない。
「やっぱ、才能無いのかな、アタシ……」
魔法が大衆教育に組み込まれて結構な時間が経った。もう魔法を使うのは常識で、この国ジパンじゃ義務教育にさえなってる。だけど、もう高校二年にもなるアタシは、初歩の物体制御すらまともに使えない。魔法術式を描いたり、詠唱呪文を口にしたって、出来上がる魔法陣はたちまちに壊れちゃう。挙句の果てに、私にはちゃんと魔力があるのに、どういう理由か、測定器は一切反応してくれない。おかげで、小学校の時には特別授業とかいって散々な日々を送る破目になったんだから。
「……、最悪」
気づくと、アタシは身体を丸めるように縮こまって座り込んでいた。惨めだ。本当に。
「それで、なんで私たちはこんなおんぼろ校舎に来てるんだったか?」
静かに、アニーがアタシの横に腰を下ろす。
「確か、最近流行ってる七不思議の一つを調査するんでしたよね」
柔らかな声で答えながら、アニーと反対側にユーリが座った。クリーン系の魔法で埃を掃除しながら、二人は私の言葉を待つ。だから、アタシはこの二人と一緒にいるのかもしれない、と改めて思う。二人はアタシのコンプレックスを知りながら、それに構うことなく普通に魔法を使うんだから。気を遣ってくれてるくせに、それが意味ないくらい普通に。コンニャローめ。
アタシの口から吐息が零れた。たぶん、溜息よりは軽い。
「えぇ、そうよ。七不思議。十も二十もある七不思議の一つが、ちょっと問題になってるの」
アタシは立ち上がると二人から少し離れて、本棚から落っこちた本の一冊を手に取る。何の利益も生みそうにない本だけど、そのタイトルは偶然にも、今の話題に即したもので。つまり、この部屋に見当をつけたのは正解だったってことよ。
「その名も、『古の魔女が造った!? 学園に秘めらし戦艦システム!』、よ」
題名『市立加倉間上級学校史 -魔女戦争録-』
「いにしえ、って……。この学校ってそんなに古いんですか?」
「デリ学は創立7年ね」
「まだまだ新設校だな」
「あのね、この校舎の話ですよ?」
一応言っておくと、このボロい校舎はアタシたちデリ学生が使う校舎じゃないわ。コーデリアス学園の校舎はここからちょっと歩いた所にちゃんと新品が建っているからね。
デリ学は、廃校になった学校の敷地を含めた一帯の土地を買い取って創られた私立校なの。学生寮や各種グラウンドの他にもいろいろな設備が学園敷地内に建っているわ。予定では中等部とかも創るんだとか。無名のくせにかなりでかいのよね、ウチって。因みに、上級学校ってのは今でいう高等学校のことよ。
「しかし、戦闘艦を備えた学園、か」
「たしか、ガレージって言うんですよね、そういうの」
なんで学校に戦争を持ちこむのかしら。学徒兵なんて、いつの近代よ。
「なるほどな。静戦期に入ったこの現代で、戦争の代名詞たる戦艦が新たに見つかったとなれば、確かに大問題だな。見つかったなら、ば」
言外に、そんなことはありえない、とアニーは否定する。まぁ、そんなことはわかりきってることだけど。
「あのね、アニー。七不思議だの幽霊だのが問題なのは、それが実在するかどうかじゃないの。それを確認しようと盛り上がっちゃったアホみたいなバカ共が、何かやらかすから問題なのよ」
今回で言えば、もうこの一週間で十人以上の生徒が深夜の校舎に不法侵入している、っていう話だし。警備の人に迷惑がかかってるのもそうだけど、何より侵入するために解除した警備魔法の類を直さないで帰りやがるもんだから、実害的にマジで問題なのよ。ってか、仮にもプロの警備を抜くとか、絶対に参組以上の奴が関わってるでしょ、これ。経営方針間違ってんじゃないの、理事長さん?
「ホント、こっちの苦労も知らないバカばっかでイヤんなるわ」
「あれ? でも、だったらマーちゃんが調査する意味ってないんじゃないですか?」
ユーリの言葉は正解。問題の主眼を『生徒』っておくなら、取るべき行動は生徒たちに向けられるべきだものね。
「そう。つまり、この調査の目的は七不思議の真偽には無いの。アタシたちは、七不思議なんて嘘っぱち、って否定するための根拠を見つけるのよ!」
言葉ってやっぱり大事よね。大したことじゃないのに、自然と力が入ってヤル気になってくる。そうよ、アタシは魔法が使えないけど、何もできないわけじゃない。風紀委員長としての責務をきっちりと果たすんだから。
「……あー。そうなると、これは凶報になるのかな?」
そんなアタシの肩をすかすみたいに、アニーが苦笑いで指をさした。その先には、古ぼけて掠れちゃってる、いかにもな雰囲気の魔法陣が壁に刻まれていたのでした。
なんでやねん。
*** side out ***
地震がきた! と思ったらサイエンシーな戦艦ブリッジ的な艦長席ちっくな階段上の椅子に座っていた。
「いや、マジでどーなってんの、これ?」
確かに俺は今さっきまで休憩と称して居眠りをしていたし、魔力の存在しない空想世界を題材にした混凝土ジャングルなサイエンシー作品も好きだ。が、夢に見たことなど一度も無い。ぶっちゃけそこまで好きじゃないし。
じゃあ、目の前に突然現れたこれは何だというのか?
「コンソールは…、見た感じちょっと古いけど、普通のデバイスだな」
下の床に降りて他の座席も調べてみる。基本的には同じようなデバイスだが、プラスして珍しい型のデバイスも見られた。何かの専用コンソールなのかもしれない。それとも祭壇か? 触ってみたいが、下手に起動したらアレだし。
「っ、魔力反応……!?」
不意に、俺の頭上に魔法陣が展開し始めた。とっさに魔法陣の術式を見てみる。まぁ、わかるわけないんだけどさ。たぶん転移系だろ、流れ的に。
俺と同様に落っこちてくるのだろうと考え、即座にその場から飛び退く。が―――。
「は?」
「――――!」
まるで俺の行動を見透かしているかのように、追加の魔法陣が俺の頭上に現れた。加えて、ドップラー的に大きくなる女性の悲鳴。
「きゃぁぁぁあああっ!?」
俺の視界は一瞬にして、肌色と水色に染まった。
「ほばっ、っう゛む!?」
女子の下着、という視覚的興奮。生暖かくムンとした、嗅覚的興奮。男の性を直撃する刺激に理性は蕩ける。
人体の重さ×Gの威力を床の所為でモロに喰らう痛み。鼻と口を軟物体で的確に抑えられる絞塞。生物の根を直撃する刺激に本能は挫ける。
人生で最高の気分が、生命を揺さぶる衝撃と共にやって来た! Mに目覚めそう。
「っつつ、……もう! なんなのよ~、これ?」
「ふむ。また何処ぞに跳ばされたようだな。急角度の滑り台経由で」
「二段式だなんて、悪戯にしては手が込んでますね」
やはり複数の人間、女の子が転移してきたようだ。だが、思考がまわらない。さんそがたりない。しぬ いきをすうのだ たいはない
「悪戯以外の何だっていうのよ、こんなの。しかも、なんかこの床変だし。すーすーするうっていうか」
おれにすわっているおんなのこがぺたぺたもぞもぞとおれのからだをさぐる くすぐったい だけどさんそがたりない りあくしょんできない いいにおい いろい む r
「ん? あれ? これっ、って……、ヒィッ!?」
「っぶはぁ!!」
鼻口腔が急に解放され、俺の脊髄が即座に深呼吸を命じた。酸素がばほばほと肺に入っていく。
「ぃやぁああああ!?」
「ボはぇあっ!?!?」
そして、全てが肺から押し出された。無慈悲。
「へ、変態! 変態よ、アニー、ユーリ!? 変態がいるわ!? この変態!!」
「ぉグぅっ!?」
変態変態連呼する彼女は、最初の水月攻撃に悶える俺にキックの追撃を加えてきた。
「まぁ、変態だろうが犯罪者だろうが、もう逃げることはないだろうけどな」
「あ、あの、大丈夫ですか? 大丈夫には見えないですけど……」
そう思うのならヒールなりリフレッシュなりを掛けて下さい。絶賛呼吸困難中です。
「ユーリ! 近づいちゃダメよ! そいつは変態なの! 変態なんだから血祭りにあげる義務があるのよ!」
「え、えー?」
「落ち着け、マー。お前は変態にアレルギーでも持ってるのか?」
優しい声を掛けてくれた女子とは別の、やや大人びた女子が無慈悲女を諌めつつ、俺の方へと近づいてきた。
「すまなかったな。だが、君に非がなかったとしてもそれだけのことをしたんだ、痛み分けとしてくれると助かる」
丁寧で且つどちらの肩も持てる言い分を先に言う辺り、しっかりしている。尤も、背中に回された手の所為で好感なんて地に落ちてるけどな。俺の体調を気遣うように擦ってくれる彼女の手には、ちゃっかりと周りにバレない為の隠蔽処理を済ませた魔法陣が展開されている。わざと俺に気付かせてる辺り、しっかりしている。
「アニー! でかしたわ、そのまま拘束しなさい! そしてトドメの一発をむっ!?」
「はーい、マーちゃん、ちょーっと静かにしてましょーねー」
「むぐっ、ん゛ぐぉ~!?」
本当に人を殺せるんじゃないかってレベルの魔力を唸らせてる物騒女は、…って風紀委員長じゃねーか。で、彼女を抑えてんのが2-6の城沢有理で。つまり、アニーって呼ばれた背後の大人っぽい女子は3年の見知らぬ大人っぽい先輩じゃなくて、赤石と同じ捌組の紀伊アンジェラってことか。この子たちは三人組で有名だからな。
「さて。申し訳ないが、君がここにいる事情を話してもらいたい。恐らく、我々と同じ境遇なのだろうけどね」
女性らしさを残した低音ボイスは耳に心地よく、背に突き付けられた魔法陣は心臓に悪すぎる。
「いや、俺もいきなりでわけわかんないんですけど―――」
「あぁ、やはり君もか」
セリフに反して魔法陣がギラギラに活気づいてるんですけどね。誤魔化したら即ズドン確定なんですけどね。
「生徒会室で、会長用の席で仕事してたんです。それで、ちょっと休憩しようと背もたれに寄り掛かってたら、そこの中央の席に転移させられてですね、」
艦長席っぽい所を指すと、三人娘の視線がそちらに移る。それから、一層の猜疑を抱えた視線が俺に戻って来た。面倒くせーなー、もう。
「それで、何故、我々の転移下にまで移動したんだ?」
「たまたまですよ、偶然です! 普通、こんなわけわかんない所に跳ばされたら歩き回って調べるでしょ!?」
気分は痴漢冤罪者だ。なったことねーけど。
「……ふむ、成程な」
魔法が解除され、紀伊は俺から離れて戻っていく。なんと素晴らしい女性であることか。
「はぁ!? ちょ、アニー! そんな変態の言うことを信じるの!?」
「変態云々はさておき、少なくとも嘘は言っていない。ユーリはどうだ?」
「うん、私もアニーに賛成かな」
「ユーリまで!?」
「マーちゃん、あそこの椅子にはね、いくつか魔法陣が施されてるんだけど、彼の魔力痕は無いと思いますよ。勿論、私たちが通ってきた転移門にもね」
「―――だ、そうだが。マー?」
「う、ぐぬぬぬぬ……!」
この子らは本当に仲がよろしいのだろうか? 仲良しで有名な子たちの筈なんだが。まぁ、どうでもいいか。どうせ主導権はあっちのものなんだし、俺がどうこうできるわけでもないし。
「そこの変態!」
「はい、なんでしょうか?」
「なんでしょう、じゃないわよ!」
じゃあどうしろと?
「……って、アンタ、よく見たら生徒会長じゃない」
「なに?」
「え゛!? そうなの、マーちゃん?」
「間違いないわよ、よく顔合わせるもん。今日だってそうだったし」
「「あー、そういえば」」
流石は我が校の生徒会、認知度が低すぎる。
「っていうか生徒会長! アンタ生徒会長なんだから、ここが学校のどこかぐらいわかるでしょ!?」
わかるかい。
「えー、あー、そー、ですね…」
学園敷地内の二か所から別々に跳ばされた先が同じなんだから、ここが学校のどこか、ってことは確定でいいと思うけど。
「参考までに、皆さんはどこから転移されたんですか? できれば、その切っ掛けも」
「はぁ? しょうがないわね。いい? 私たちはね、きゅう……、っ」
何故恥ずかしそうに詰まる?
「きゅ、旧校舎よ。旧校舎の社会科準備室から二回跳ばされたの! 悪い!?」
なんでキレてんだよ? しかも、旧校舎とはまた……。まぁ、赤石は風紀委員長だし、申請を出せば問題なく入れるんだろうけど、何の用があったんだ? 旧校舎なんて、何も知らないアホの一年が肝試しに入っては教師に見つかって説教くらうだけ、という何のイベントもない場所じゃないか。警備魔法が張ってあるから溜まり場にすらならない、本当のゴミ建築だ。
「しかも二回……」
「なによ、何か文句でもあるわけ?」
文句があるのはそっちだろ。さっきの変態云々をまだ根に持ってんのか?
「それで、生徒会長。何かわかりそうか?」
「……いえ、すみませんが。生徒会長といっても、皆さんと大して変わりませんし」
ぶっちゃけ、赤石のように常任委員会の委員長やってる方が権限とかは多いし、有用だ。
「つかえないわね、会長のくせに」
風紀委員長のくせにつかえない奴だ。
「だが、そうなるとどうやって帰ったものか……?」
「解析してみる、転移門の魔法陣?」
場の空気を入れ替えるように紀伊と城沢が会話を挿む。仲が良いかは知らないが、この三人、付き合いは深いらしい。赤石の反応を適度に無視するとか、扱いに慣れてるといった印象だ。
「できんの、あれ? なんか、魔力が最初の時以上に薄くなってる気がするんだけど」
「私には無理だな、少なくとも」
「ごめんなさい、私も無理かも」
「ダメじゃない」
「で、でもでも! 手がかりは何か見つかるかもしれないし…!」
「「なるほど」」
うーん、流石は陸組と捌組。頭の差が悲しいね。
「肩車してやろうか、ユーリ?」
「この椅子とか動かせないの?」
「あ、あの、これぐらいなら、私でも飛行魔法で…」
本当、1クラス分の差が悲しい。
****
「どう、ユーリ? 何かわかりそう?」
「うーん、ちょっとダメ、っぽいかな」
あれから30分ほど、城沢は魔法陣と格闘してるわけだが、結果は芳しくないらしい。っていうか、クラス関係無く普通そうなるし。
「やっぱりこれ、出力側の魔法陣みたいで…。見たことある文字があれば、って思ってたんですけど」
「あーやっぱそっかー」
どんな魔法陣であれ、難解な詠唱だろうと複雑な術式だろうと、人間が構築したものなら人間に解析できない道理はない。しかし、魔法のロジックを組み上げ、魔力を流し、魔法が現象する段階で描き出される魔法陣、いわゆる出力側の魔法陣は事情が異なるわけだ。
そもそも魔法っていうのは世界を形成する因子の一つ、精霊によって引き起こされるもので、つまり魔法陣は精霊の言語で表現されている。そして厄介なことに、精霊の言語には法則性がない。少なくとも、有力な学説も噂も現状では存在しない。
そんなわけで、誰が解読できなくても恥にはならない。よく漫画やドラマで魔法陣を解読しているシーンがあるが、それはトラップとして刻まれている魔法陣で、実は入力側のやつだったりする。
尤も、城沢に話を振られた赤石は何も理解していないんだろうけどな。
「あんま無理しなくていいよ、ユーリ。ここが亜空間ってわけでもなさそうだし、外に出る方法は他にもあるわよ」
「うん、ありがとう。でも、もう少しやらせて。キリのいい所までやってみたいんです」
「相変わらず勉強熱心ね」
精霊語を文字として認識してるぐらいだからな。さぞやイキイキとした表情をしていることだろう。
え? 気になるなら顔を見て断言しろ、って? はっはっは、無茶をおっしゃる。俺今、目隠しされて縛られてるんだぜ。何故こうなったし。
「ん? なにか言ったか、生徒会長?」
「いいえ、何も言ってません」
ってかこれ、捌組のくせに魔法上手くないか? このブラインドといい、バインドといい、……はっ! まさか、そういう趣味があるから回を重ねる毎に得意になっちゃ―――!
「何か仰ったかな、生徒会長殿?」
「い、いえ、なにも……っ」
監視役の紀伊がぐりぐりと俺の背を踏みにじる。あぁやめて女王さま! ってか。
「ちょっと生徒会長、一人で遊んでんじゃないわよ」
遊んでないです。一人でもないです。
「少しは協力しなさいよね。ほんと、使えない」
なら解放しろよ。ミニスカートで飛行魔法なんて使ったらパンツ丸見え、って理由はわかるけどさ。だったらスパッツなり重ねなり穿けばいいじゃん。
「会長はあれの解析はできないのか?」
「無理です。僕、漆組の人間なんで」
「私たちより上じゃない。役立たずね」
城沢より下だって言ってんだよ、捌組。
「マーちゃん、アニー。ごめんなさい、やっぱり何もわかりませんでした」
城沢の声が近づく。どうやら諦めて戻って来たらしい。
「そう。つっても、魔法陣が読めるのなんて変態以外ありえないし、むしろ安心したわよ」
「あはは、ありがとう、マーちゃん」
フォローなのか? 赤石のそれはフォローのつもりなのか? ただの率直な感想にしか思えないんだが、まぁ、彼女らを知らない俺に語る口はないしな。
さて。そんなこんなをしていると、ある意味待望と言っていいだろう、大きな変化がこの部屋に訪れた。
『ビーッ!! ビーッ!!』
けたたましいビープ音。侵入者を検知したかのように鳴っているけど、たぶん違う。ってか、現在完了形で俺たちが侵入者だし。だとしたらポンコツ過ぎだろ。
「な、なによ、いきなりなんだっていうの!?」
「あ。もしかして、私があの魔法陣をいじったから…?」
「バカ言え。タイミングが遅すぎだ。おそらく、これは外で―――」
何か状況が変化し、その対応が必要になった。だから中に報せが来た、ってところだ。
「見て! あそこ、何か光ってるわ」
赤石が声を上げると、三人は応じ合って駆けて行った。うむ、イベントを進めるのはいいけど、せめて俺を開放してからにしてほしいな。状況がさっぱりだ。
「――――」
「――――」
「――――」
やはり、明確な変化がおきているらしい。三人の話してるのが聞こえる。何を話してるのかは知らん。
「とはいえ、仕事が無いわけではないらしい」
繋いだことのないチャンネルから魔力通信、いわゆる念話-テレパス-のアクセスが来た。3人娘の秘密回線-プライベートチャンネル-だったら感極まるんだけど、十中八九この施設の何かだろう。
とりあえず、接続してみる。
《ようこそ、艦長。緊急事態です》
いきなりだな、おい。
《認証登録が済んでおりません。至急、行程を完了してください》
脳内にアナウンスが届くと、中央に一層高く設置されている艦長席みたいな所、ってかやっぱりここは艦船の艦橋-ブリッジ-だったんだな、に魔力反応が感じられた。ご丁寧にも俺の魔力サンプル付で。たぶん、転移であの椅子に落っこちた時に魔力波長を計られたんだろう。
さて、そうなると…、念話で一つ返信してみるか。
《登録が終わった後、その情報を削除できますか?》
《Yes》
即答。まぁ、当然と言えば当然なのだが。これで相手が一方通行のプログラムじゃないことが判明したわけだ。
「拘束は……、相変わらず解けそうにない、っと」
なら、さっさと認証を済ませて事態の対処を取り、キリがついたら登録情報を削除する、のが得策だな。面倒事に巻き込まれるのはゴメンだ。
「起動-ゼクセッタ-」
お呪いを唱えて魔力を活性化させる。活性状態で日常を過ごすことが体育会系の必須技能らしいけど、俺みたいな魔力無しの根性無しには無理な話だ。蛇足だけど、三人娘はちゃんと常時活性状態にある。
「物体制御、開始」
制服や上履きといった服飾品に魔力を浸透させる。残念ながら、俺の飛行魔法の移動距離は30cmなわけで、あそこの艦長席には登れなかったりする。代わりに、身に着けている物を物体制御という、魔法陣の要らない魔法で動かして俺ごと運ぶのだ。効率なんて下の下だけど、物体制御の良点は訓練すれば才能関係無しに上達するという所にある。ビバ、物体制御。
のっしりと鈍い浮遊感に包まれて、俺の肉体が座席の魔力反応へと近づいていく。目的地の魔力さえ掴めていれば、目隠しされてたって余裕ってものよ。
「――っと。なになに? 氏名、生年月日、学籍番号を入力してください? 生徒が着くこと前提かよ、ここの艦長は」
物体制御で浮かせた身体を着席させると、再びアナウンスが念話で流れてきた。手元には入力コンソールらしき魔力反応がくっきりと確認できる。俺はそこに魔力を伸ばし、同調し、念話の要領で入力していく。
《情報照合、……、完了。東明萬喜夫・第11期生徒会長の認証登録を確認。並びに、初代艦長の着任をここに示します》
うん? 何か妙な文言がくっついてた気がするが…。
《魔力波長登録、完了。パスの認識及び接続、完了》
う~ん? いよいよ後戻りできない文言がくっついてないか~?
《全機構整合……、完了。状態良好。武装の登録は2点です、戦闘は回避することを推奨します。指示をどうぞ》
これ、本当に登録情報消せるよな?
《早速だけど、僕にかかってるバステを解除できますか?》
《Yes》
はい、即答いただきました。
《じゃあ、お願いします》
《了解。艦長生命保護プログラム起動、呪文選択“精浄-リフレッシュ-”》
アナウンスの宣言の後、この艦に貯蔵されていたと思われる魔力が俺を包み、魔法を発動する。リフレッシュ、毒や麻痺などを治すオーソドックスな治癒系魔法だ。基本的にはほぼ全ての状態異常を治せるが、症状に見合った魔力消費と成功確率がついて回る。
《成果観測……、成功。艦長の指示を完遂しました》
俺の目を覆っていた魔法が解け、視覚に光が戻る。同時、両手首を拘束していたバインドも壊れた。恐らく、術者の集中が逸れたのと、リフレッシュに使われた艦の魔力との間で魔力間反発が発生したのとが相乗した結果だろう。この保護機能とやらが外でも使えるなら、この艦長の座はとてもおいしいものと考えられる。少し、そういう方向も探ってみようか。
「「じ~~」」
「じ、じー…」
「え…、ぅわぁっ!?」
目を開くと、そこは女の子だった。
「って、ちょ、あーーっ!?」
そして俺は落っこちた。
うん、待ってくれ。大丈夫だ、俺の精神は正常だ。だからイエロースカーフは呼ばなくていい。何を言ってるのかわかんないのは俺も同じだ。それぐらいわけわかんない現状だったのだ。俺の眼前に三人娘の顔がドアップで待ってたんだぞ、ビックリして艦長席から転がり落ちても無理はないと思わないかい? 俺は思うね。そして死ぬかと思った。
「っつ~……!」
「だ、大丈夫ですか、会長さん?」
一人だけ恥ずかしそうに俺を覗いていた城沢が、ふわり、と穏やかな飛行で降りてくる。脚を閉じてスカートを抑える姿が超エロい。
「今、治癒-ヒール-を掛けますね」
「いや、大丈夫ですので、お構いなく」
「構います! 大した高さじゃなくても落っこちたんですよ!? これぐらいさせて下さい」
さっきまでの静かな雰囲気とは打って変わっての押せ押せだ。面食らった俺を強行されたヒールが包む。言うだけあって実に手慣れた感じだ。効力が素早く行き渡り、それでいて魔力は柔らかい。お手本のようなヒールである。
「……風?」
「え? えぇ、そうです。私の属性傾向は風なので」
これだけの実力があるのだから、てっきり典型的な水属性だと思ったんだけど、城沢は『風』の人間なのか。まぁ、風だって治癒系に向かないわけじゃないし、土や木にだって治癒魔法はあるわけだけどさ。
「ふん、情けないわね。たかが1m落っこちたぐらいでヒーヒー言っちゃってさ」
「実際は2m近くあるし、ヒーヒー言ってもいないけどな」
「……るっさいわね」
コツコツと態とらしく足音を鳴らして近づいてきたのが赤石で、後ろからツッコミを挿れながら歩いて来るのが紀伊だ。二人とも飛行魔法は使わないらしい。捌組だもんな。
「それで、生徒会長殿? 貴方はあそこの席に座って何をやっていたのかしら?」
城沢を俺から遠ざけるように割り込んだ赤石は、ガンつけるようにずいっと顔を寄せてきた。とてもいい匂いだ。
「え、いや、なんか、生徒会長の承認がどう―――」
「私の目を見て答えなさい」
ムリです。
「と、とにかく! お三方には何も影響ないことですので気にせず事を進めて下さい!」
「はあ!? あのね、私はアンタが何を―――」
「そのことなんだがな、会長さん」
「アニー!?」
ありがたくも誤魔化しに乗ってくれた紀伊に土下座レベルの感謝を心の中で送りつつ、俺は赤石から飛び退いた。
「あのな、マー。そいつを吊し上げるのはいつでもできるが」
あぁ、見逃してくれるわけじゃないのね。
「今、私たちには早急に済まさねばならない問題があるだろ」
「うっ、それはそうだけど……」
赤石を黙らせた紀伊の指が示すのは、今もサイレンのように明滅しているコンソール。操作に行き詰ったか?
「さて、会長。聞かば見よ、ちょっとこっちに来てくれないか?」
三人娘の中で紀伊はドライな性格のようだ。俺の猥行を根に持つでもなく、落下の心配をするでもなく、ただの問題処理要員として俺をコンソールへと誘う。断る理由はないし、断れる状況でもないし。俺は素直に紀伊について行った。
「この画面を見てくれ」
案内された先にあったのは、映像投影用の魔水晶-ラクリマ-が填め込まれた典型的な演術制御板-コンソール-だ。そこから描出されているホログラムは、艦外レーダー。何か特殊なセンサーなのだろう、反応は一つしかない。いや、ここが空とか海だったらそうでもないけど、十中八九、学校の地下だろうしさ。
「縮尺は、現代単位……」
古代の遺物、なんてフィクション展開は無いってさ。
「ん? どういうこと?」
画面から可能な限りの情報収集に勤しんでいると、隣で見当違いな声色が上がった。
「あれ? 画面が変わってます、よね?」
え、そうなの?
「ちょっとアンタ! 何やったのよ!?」
「僕じゃないっすよ! 何もやってないっす! 見てただけっすから!」
思わず両手を上げて首をぶんぶんと振る。気分は痴漢冤罪者だ。あれ? なんかデジャブ。
「あ、あの、一応、っていうか、聞いておきたいんすけど……」
「なによ?」
いちいち睨むなよ、泣くぞ。
「参考までに、どんな画面だったか聞いておきたいなー、って」
「はぁ? どんな画面って、そんなの決まってるじゃない」
決まってねーよ。
「たしか、艦長の、……許可? が、まだとか……」
「『艦長の認証が済んでおりません。この命令は許可されていません』、という警告文が出ていたんだ」
「そういう画面だったのよ」
わーお、何かしたの俺じゃん。
「それで、『艦長の認証』とやらをどうやって行えばいいものか、とな」
「その時、たまたま会長さんがあそこの席に移動してたので……」
「そ、そーだったんですかー。でも残念っすねー。俺がやってたのは生徒会長がどうとかって処理だったんですよねー」
艦長の権限とか全然わかってないってのに、このまま詰問されたら終わる。強引にでも誤魔化すべし!
「ま、まーでも画面が進んだんだからよかったですねー。たぶんさっきのサイレンはこのレーダー反応のことでしょうしねー」
「なんか急に胡散臭くなったわね、アンタ」
「まぁ、そういうことにしておこうか」
どうとでも言え。見抜かれた所で俺は痛くも痒くもないわ。これが終わったら尋問される前に逃げてハッピーエンドってもんよ。
ということで、俺は彼女たち三人に席を譲って自分の現状確認に戻る。これが艦で、レーダー反応が警報を鳴らした、ときたら、もう嫌な予感しかしない。
「ふむ、どうやら“でかい何か”が遠くから高速で接近している、ということらしいな」
「それが何なのかわかんないわけ? ってか、このレーダーは何のレーダーなのよ?」
「ここって、シミュレータールームみたいなものなんですかね?」
彼女たちはコンソールや立体映像をいじりながら、あーでもないこーでもない、と試行錯誤している。システムが起動した、というさっきのアナウンスは正しいようで、彼女たちの操作に合わせて新たなウィンドウが現れたり、別のコンソールが起動したりと賑やかだ。
《……音声ガイドはありますか?》
《Yes》
パスがどうとか言ってたのを思い出したので試しに秘密回線で念話を送ってみたが、やっぱり即答が返ってきた。本当、気が利かないよね、コンピュータって。
《それじゃ、ガイドで彼女たち……、2-6城沢有理、2-8赤石真萌及び紀伊アンジェラに応対してください。システムの権限を彼女たちに譲渡しても構いません》
《了解しました。該当在校生徒三名に許可を下します。但し、あらゆる決定権は艦長である貴方に常に依存します。ご注意ください》
ちっ。そんなに甘くないか。
『初めまして、ゲストの皆さん』
「ん?」
「わひゃ!? なに、なになに!?」
「あら」
さっきまで俺にだけ聞こえていたデジタル染みた音声が予告もなくブリッジに響いた。同時に、艦橋窓-メインサイト-と思われる凹壁にメッセージウィンドウが映し出される。
『私は本艦の全機構の統括及び監視を任されている人工精霊-Artifical Imaginer-です』
AIを自称するその声文は、右に左にと忙しなく仕掛けを探す赤石を滑稽に置き去って、それを告げた。
『遅ればせながら。ようこそ、学園搭載型ベヒーモス級戦闘艦“シュレディンガー”へ』




