クソ兵士どもが
紫龍の死は確実に兄弟の中を引き裂くほどのものだった
謙棲が新たな王になってからも昔からの無鉄砲さが抜けておらず、幾度なく兵士たちを危険な目に遭わせていた。
そんな王に人など付いて行くはずがない。
嘩緒羅をどうにか王にしようと動く者まで出てくるようになり、嘘を信じてしまう謙棲は嘩緒羅が謀反を起こそうとしていると言うありふれた嘘を信じてしまった。
執事二人はどうにか説得させようと動こうとするが兵士たちに行動を邪魔される。
藍哉でさえ最近は謙棲の世話までできなくなっていた
どう見てもヤバイ方向に進んでいるのは目に見えて分かった
戦闘部族だが、だからといって戦が好きではない二人はどうにか内戦を避けたかった
嘩緒羅は嘩緒羅で兵士たちが回りを固めてしまい緋蘇那も嘩緒羅に口出しできない状態なのだ
「チッくそどもが!!」
ドンッ!!!!バキバキバッシャーン!!!!
今、藍哉と緋蘇那は森の中にいた
家老たちに屋敷から追い出されたのである
藍哉は怒りのままに木を殴り付けて折ってしまった
「藍哉さん、あまり暴れるとバレますよ」
緋蘇那は丸太に座りながら藍哉を見るがその丸太は緋蘇那自身が倒してしまった木なのだ
我慢強い二人でも今回のことは腹が立っている
どちらにと問われれば両方だと答えるだろう。なにも言わないし会いに行こうとしない謙棲と嘩緒羅と自分達を遠ざける兵士たちだ
歯痒くて仕方がない
「それにしてもどうしましょうか、このままでは兵士たちに押されるがまま内戦が起こってしまう」
緋蘇那は立ち上がり城を見下ろした
民たちもいつ戦が起きてしまうのかと夜も眠れなく警戒していた
こんなの紫龍が望んだ世の中ではない
「…どうにか謙棲たちと話ができればな」
緋蘇那と同じように城と民をみた
やはり人間は哀れな生き物だ。どこまで落ちていけば気がすむのだろうか
二人が静かに見ていると人の気配を感じ急いで隠れた
「謙棲様、ここからなら確実に辺りが見渡せて良い陣だと思いまする」
人の気配は藍哉たちを城から追い出した家老たちと謙棲だった
「なぁ、藍哉はどこに居るんだ?最近会ってないんだけど」
謙棲はめんどくさそうに歩きながら家老たちに聞いているが家老たちはなにも言わなかったが
「藍哉様は緋蘇那様と繋がっております。もし作戦が藍哉様にバレれば嘩緒羅様のお耳に渡ります」
その言葉を聞いた瞬間藍哉はその家老を殴りたい衝動に駈られた
謙棲にまで自分のことを敵としようとの考えに本当にバカに思えた
戦闘部族に喧嘩を売って潰された国は過去に何個かある
その一つにされたいのか彼奴らは
「藍哉さん落ち着いてください。今はこの状況をどうにかすることです」
緋蘇那が止めようとするが藍哉は謙棲たちの前に出た
「おやおや、裏切り者とは私のことですか?謙棲様?」
いつも謙棲や兵士たちに見せる作り物の笑み
家老たちは藍哉の登場に驚き謙棲の後ろに隠れてしまった
「藍哉、藍哉は本当に裏切りなの?」
謙棲がやはり疑いの目を向けてきた。藍哉は謙棲を見ずに後ろに隠れている家老を見ていた
「さあ?私は言いましたよね?自分の思ったこと考えたことで行動しろと。追い出したければ追い出せば良い、我々戦闘部族は静かな地に移り住み二度と政治に関わることもしない」
藍哉は真っ直ぐ謙棲の目を見ていた
藍哉は一種の賭けに出ていた。ここでどう判断することで王にふさわしいか分かる
さあ謙棲、これでお前の運命が変わるんだ早く答えろ