幻再登場
警備が眠らされている紫龍邸の中へ急いで入っていったが、人の気配がまったくしてなかった
「……チッなんだよこれは…」
藍哉はただただ謙棲のことしか頭になかった
藍哉は紫龍の部屋に行こうと走っていたが、大広間に差し掛かったとき
ドサッ!!ガタッ!!グッチャ
どう考えても大広間の中からの音だった
藍哉は思いっきり扉を蹴り飛ばし中へ入ると、そこには、幻・志鳥と死体となった紫龍に守られている謙棲がいた
藍哉は目眩がした感覚に襲われた
「し、……紫龍、さ、ま?っ―!!紫龍様!!」
藍哉は紫龍と謙棲の元に行こうと幻の横を通りすぎろうとしたとき
「藍哉捕まえた♪」
幻に思いっきり抱え込まれてしまった
一瞬の出来事で、反応に遅れてしまった藍哉は必死にもがくが幻の腕はビクともしない
「放せ!!放せ幻!!!!謙棲様!!速く屋敷へ!!」
「……藍…哉、可笑しいんだ……どうして、父上はこんなに冷たいんだ?」
謙棲はゆっくりと頭を上げ藍哉を見るが目に光が宿っていなかった。
悲しいのに涙が出てこない、絶望ただその言葉が似合った。
藍哉も謙棲の変わりように抵抗をすることすら忘れて唖然と見ていた
「ねぇねぇ君、謙棲って言うんだね♪残念だったね、君が弱いからお父さん死んじゃったよ?君が弱いから藍哉が君の世話なんかしなきゃいけないんだよ?」
幻が話始めまた抵抗をし始めたがどうもならない
「クッ!!謙棲様、いいですか!?こいつの言うことを信じないでください!!幻!!テメェ~いい加減放しやがれ!!」
藍哉は必死に自由な左手を謙棲の方に必死に伸ばしたがそれさえも気に入らないかのように、幻は藍哉を抱えて謙棲に背を向けさせた
「クソッ!!緋蘇那!!」
届くはずがないのに藍哉は大声で戦闘部族の一人緋蘇那の名を呼んだ
チリンチリン
幻と藍哉の片耳についている羽と鈴のイヤリングの鈴がなり始めた
藍哉は二つ、幻は三つ鈴が付いているが普通に動いても鳴らない不思議な鈴なのだが、仲間の戦闘部族が近くにいるとなるらしい。
まぁ、幻に対しては絶対鳴らないが…
「ふ~ん、諏佐兜家の生き残りか……」
幻はずっとニヤニヤ笑っているが詰まらなそうである。
「諏佐兜家には興味無いんだよね~だから今日は帰るね?」
チュッ
幻は藍哉を放すと口にわざとらしくリップ音付きのキスをして出ていった
藍哉は一瞬何されたのか分からなかったが理解したとたんにすぐに口を強引に拭いた
「すみません、藍哉さん……!?紫龍様!?」
緋蘇那が走って中に入ってくるとすぐに紫龍の元に走った。
嘩緒羅も後に続いて中に入ってきたが、唖然と父の亡骸を見つめながら謙棲を抱き締めることしかできなかった
この日、紫龍・敦煌が亡くなったことは町にもすぐに広まった。
国王の急死は静かに悲しまれたが、息子たちの心には大きな亀裂が走った―――