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海老怪談  作者: 海老
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ふったち

 筆者が昔、薄汚れの仕事をしていた時にあった話のなかで、その後を考えると気が重くなる話がある。

 詳細は憚りがあって書けないが、とあるシャブ中に金の返済をしにいったことがある。もちろん、私的なものではなく事業の金である。

 シャブ中の事務所に行くと、見るからに怖い連中がいて、奥からシャブ中とその奥さんが悲しげな顔で筆者を見ている。

 シャブ中と奥さんは、大型犬用の檻に入れられて泣いていた。

 金の返済を終えて、全く知らない怖い連中から他言無用と念を押されて領収書をもらって帰った。

 その後、しばらくして薄汚れ仕事は辞めて、町工場で働くようになった。

 ペットショップに行くと、今もあの悲しげな眼を思い出す。



 愛犬家の柴田氏から聞いた話。

 柴田氏はゴールデンレトリバーという大きな犬を飼っている。

 犬は家族ということで、大変に愛情をもって育てているのだそうだ。

 柴田氏の散歩コースで、たまに見かける子供がいた。

 雑種犬を連れていて、早足に通り過ぎる子供だ。

 昨今の御時世では、愛犬家同士といえど、女性や子供に気軽に声をかけるというのは憚られる。ドッグランなどでは話せる空気があるものの、夕暮れの街かどでは何を言われるかたまったものではない。

 少年の連れている雑種犬は、なんとも味のある顔をしている。

 柴田氏に伺った時、幾つかの犬種をあげてその特徴が混じったものだと教えて頂いたが、あまり興味の無い筆者は覚えられなかった。

 柴田氏のレトリバーは、その雑種犬が嫌いなのか、通り過ぎる時はいつも早足でリードを引っ張るという。

「その子はあんまりいい格好してなくてね、親がしっかりしてないんだろうなあ。匂うんだよね。犬って、その辺りは敏感でさ。荒んだ子供とかの横は早足で通り過ぎるんだよ」

 柴田氏が言うには、犬の吠える相手というのはそれぞれに特徴があるという。犬の性格もあるのだろうが、なんというか汚れたヤツには特によく吠える。

 筆者もよく吠えられるので、その特徴にあうのだろう。



 会社の帰りのことである。

 残業で遅くなり、夜道を歩いていると、あの子供がいた。

 時間帯は違うが、犬を連れている。遅い散歩かと、怪訝に思ったそうだ。

 何か言おうかな、と思ってやめた。

 子供は白目を剥いて頭をブラブラさせており、首が二つあった。襟首からにょきっと生えたもう一本の首は、憤怒の形相の大人のものだった。

 雑種犬はハッハッと息を上げて、子供を早足に歩かせる。

 横を通り過ぎていく時、子供の口から犬のような唸り声が聞こえた。

「言ってはいけませんよ」

 と、犬は女の声で言った。

 早足で家に帰った。


 その後、散歩道であの子供を見かけることはなくなったそうだ。

 先日、愛犬のレトリバーが不調を訴えた。

 なんとなく思い至ることのあった柴田氏は、近所の神社でお水をもらい、レトリバーに飲ませた。

 レトリバーは小人のようなものを吐きだした。

「あっ」

 と、柴田氏が驚いて声を出すと、その小人は二本足でぴゅうと駆けて、側溝に入り逃げてしまった。

 その後、特に怪異は無い。

 今も、柴田氏と愛犬は元気に過ごしている。


 こういう話を聞くと、ペットを飼おうという気力がなくなる。

 子供も動物も、筆者は苦手である。


創作です

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