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海老怪談  作者: 海老
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止まり鬼

実話だが別に怖くはない



 筆者は街でよく声をかけられる。

 道を尋ねられることもあれば、頭のイカレたヤツの時もある。


 もう十年以上前の話になるが、キタの元々はテレビ局の入っていたビルで、ゲーム制作関係の仕事をしていたことがある。

 そのビルはスレビの外部スタジオも入っていて、関西の有名なボーイズアイドルが収録を行っていた。

 風俗街のど真ん中にあるのだが、ビルの周りには追っかけの女の子やチンピラやキャバ穣がいて、なかなかカオスな場所だった。



 夜半、風呂に入りにいった時のことである。

 いやに古いタイプの格好をした紳士と淑女に道を尋ねられた。

 古い、といっても流行とのズレという意味だ。90年代当時では誰も着ていなかった80年代風の格好だった。

 目立つために奇行を行う若者かとも思ったが、そうでもない。

 その場所から少し離れた住宅街への道を聞いてくるので、適当に答えた。



 朝まで仕事をして、コンビニにでかけたら、また同じ紳士と淑女がいる。

 また同じ道を尋ねてくる。



 夕暮れ、また同じことがある。



 当時、筆者の行っていた仕事は、寝れない・帰れない・やり直し・と三拍子そろっていて、三度目になるとまともに相手にする気持ちは失せていた。



 その界隈では変態的なプレイを行うカップルがいた。

 軽いものなら、ノーブラで道を聞いてこい、的なものだ。

 苛立ちが頂点に達していた筆者は、三度目になってこう言った。

「道が聞きたいんやったら、警察にでもいけやコラぁ。それともヘンテコなプレイしたいんやったら、野良犬でも捕まえて××××××××」

 と、あまりにひどいことを言ってしまった。

 近くに警察がいたら、筆者が捕まっていたかもしれない。


 そこで仕事をしている時、それでもそいつらは毎日声をかけてきた。

 何度も怒鳴ったりしていて、最後の辺りはなんとなく気心が知れた感じになっていた。



 後に、道を案内する怪の話を聞くことがあった。

 あらましとしては、毎夜、奇妙な怪物に知人の家への道を聞かれるというものだ。

 少しずつ近づいてくるのだが、教えてはいけない気がして神社への道筋を案内したら、怒ったそいつが夢に出てきたという話だ。


 オカルト的に、そんなものだと面白いと思うのだが、筆者の見たアレの存在感は確かに生きた人間だった。


 その会社を辞めた日、そいつらを見かけて軽く手を振って、「じゃあな」と挨拶をしたら、そいつらは寂しそうな表情をしていた気がする。

 どんな顔付きをしていたかは、さっぱり思い出せない。



 もしも、あいつらが怪異なのだとしたら、そこそこ面白かったように思う。


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