表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/73

70.苦悩(1)

 小説の世界は自由自在に作られていく。

 

 天馬は、自分の世界を好きなように彩り、優しい香りで満ち溢れさせてきた。


 どんなときでも、読者が元気になれるようにと、主人公は常に前向きに生きているのだ。

 

 今彼が書いている作品は、誰よりも愛する女性が主人公だ。


 彼女から、わけも分からぬまま二度と会わないと言われてから、自分の思いを物語りに書き連ねてきた。

 

 書いては消し、消しては書き。


 物語の中で実香は常に輝いていた。




「そういうことだったのか」




 パソコンに向かい、扇風機の風を受けながら、天馬はぼんやりと画面に目を向けていた。


 なぜ、突然にも会わないと言われたのか、どんなに実香の心を探しても、検討も突かなかった。


 それが今、霧が晴れたように全てが見えた。




「それなら、納得がいくよ。怒るのは無理もないことだ」

 



 誰だって、裏切られたと思えば怒りも湧いてくるだろう。

 

 キーボードに手を乗せると、滑らかな指裁きでキーを叩き始める。


 画面に文字が打ち込まれ、天馬の世界が広がっていく。


 





 咲枝から話を聞いてからというもの、苦しかった胸のつかえが取れたように感じた。


 しかし、だからといって全てが解決したわけではなく、天馬との関係はそのままなのだ。

 

 実香は何を考えるでもなく、ぼんやりとベッドに座り込んだまま壁を眺めていた。




「菜都芽が酷いことをされたんじゃなくてよかった」




 口から出るのは、菜都芽のこと。




「天馬が私を裏切ったんじゃなくて良かった」




 天馬のこと。




「……あれから菜都芽から連絡がないな……そうか、私も連絡してないじゃない。何で連絡しないんだろう……。これじゃ、連絡できないまま、友達じゃなくなっちゃうよ。菜都芽を失っちゃうよ……」

 



 視線を部屋の中に這わせる。

 

 そこには洋服が散乱し、ぬいぐるみが散らかり、本が雪崩を起こしたままになっている。


 かつてこんな状態になるまで放置したことはない。


 基本的に、散らかっていることが許せないのだ。




「なんでこんなに汚くなっているんだろう」




 自分が何をしてきたのか、まるで記憶がないのだ。


 実香はベッドから下りると、ゆるゆると部屋のものを片付けだした。


 本を元の位置へ戻し、洋服を洗濯へ出す。


 一つ一つを片付けていくと、少しずつもとの部屋に戻ってきた。

 

 部屋が綺麗に片付く頃には、実香の気持ちも同じように整理ができてきていた。




「菜都芽も苦しかっただろうね。きっと、私が連絡しなかったら、連絡できないよね」




 ベッドに座り込みケイタイを手にする。


 コール音が耳に響く。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ