7.悩みの元(1)
あれほど騒がしかった咲枝の家から帰ると、母がテレビを見て大笑いの最中だ。
「ただいまー」
「お帰りー」
それだけの挨拶を交わすと、実香は自室へと足を進めた。
さすがに二六歳という年齢になると、母のそばにべったりと張り付く気にもならない。
もし、そんなことをしたら母の方も「熱でもあるの?」と聞いてくるだろう。
「うちも、にぎやかであることは同じだよ」
自室のドアを開け、ジャケットをベッドに放り投げる。
毎日お世話になっている部屋ではあるが、どこか寂しさを覚えるのは、咲枝の家に生息するオムツマンのせいだろうか。
そう考えると、殴られた頭が妙にずきずきと痛む。
「次に行くときはヘルメットを用意していかないとダメだな」
最近は一人の時間が多いせいか、独り言が増えたように思う……のは気のせいだろう。
「そうそう、若い私が独り言なんて、ありえなーい!」
と、やっぱり独り言だ。
いつものようにPCの電源を入れると、かすかな作動音が部屋に響き始める。
着ていた服を脱ぎ捨て、スエットの上下に着替える。
いつの頃からか、家にいるときはこのスタイルが楽になりだした。
こんな姿を菜都芽が見たら『わびしいね~』と喜ぶことは分かっている。
「そういう菜都芽だって、同じようなものよね」
PCを操作し、お気に入りの音楽をクリックすると、程よいボリュームで音楽が流れる。
「独身だからこその優雅な時間よ~。咲枝だったら、ありえないじゃない。
オムツマンがいたら、こんな優雅な時間あるわけないって」
どうも、咲枝の長男は実香にとって天敵と化したのか、名前がマー君ではなくオムツマンになってしまっている。
「オムツマンもだけど、下の怪獣もなかなかのつわものと見た!」
あれから怪獣が泣き出すと、咲枝が抱っこし、あやすという場面が何度もあったのだ。
結局、まともな会話など無理な話で、何をしに行ったのかといえば、単に咲枝の生存確認で終わってしまった。
しかも、一番の問題である二十歳の青年との恋(?)事情も未解決のままで、打開案すら提供してもらえなかったのだ。




