66.女神さまか実香さまか(1)
翌日には子供を預け、実香の家に押しかけていた。
「今年の暑さは、また尋常じゃないわね」
そういう咲枝の背中はびっしょりと濡れている。
額には無数の汗の筋、首筋には保冷剤のマフラー、さすがにその格好で電車に乗ったのかと聞きたくなったが、せっかく暑い中来てくれた友達だ、見てみぬ振りも大事だろう。
「実香のバイト先にも行ったんだけどさ。そしたら休んでるって言うじゃない。
せめて電話に出てくれたら、バイト先には行かなかったんだけどね」
エアコンの風が一番当たる場所に座り込んで、顔から首からと拭き上げている姿は、最早オバサンである。
「ごめん。誰とも話したくなくて」
「それじゃあ、うつ病と同じじゃない」
確かに菜都芽が心配したとおり、かなり落ち込んでいる。
「私はまだいいよ。菜都芽のことを思うと、どれほどつらかったかと思うと……」
そういう実香の目から、涙が流れる。
「毎日そうやって泣いてたの?」
こっくりと頭が動き、そのまま顔が上がってこない。
「首……重そうだね」
その感想はおかしいだろう。
「あのさー。実香がうなだれている原因についてなんだけど」
実香の肩がゆれた。
「聞く?」
顔を上げて咲枝を見るが、その目は恐怖すら感じられた。
もう聞きたくないという思いと、聞いてどんな辛さも悲しみも受けることが自分の罪の償いだと思い込んでいるような、苦しい表情。
「この話を聞けば、今の実香の表情が一瞬にして元気になると思うんだけど」
そう前置きして本題に入った。
「実はね、この間の話でさぁ」
話のスタートがかなり軽い。
わざと軽くしているのか、本当に軽い話なのか。
実香はじっと咲枝の顔を見つめた。
「あれは全部嘘だったのよ。私もビックリしたんだけど、昨日菜都芽がうちに来て、実香に申し訳ないって落ち込んでてさぁ。内容を聞いたら、全部嘘! 大嘘!」
「嘘?」
嘘と言う言葉の意味が分からないのか、理解できないのか、実香は『嘘、嘘、嘘』と、何度も呟いていた。
「そう、嘘なのよ。菜都芽のヤキモチよ。あの子さぁ、不倫しててね、不倫相手に振られたばかりでさ。その前の恋愛もうまく行かなかったじゃない。で、今回も散々遊ばれて『妻が~』とかって逃げられたんだって」
「……」




