64.懺悔(1)
「どうしたの、あれから連絡がなかったから心配してたんだよ」
咲枝が小さなギャングにミルクを飲ませながら、菜都芽を見た。
沈んだ顔に涙を溜めた瞳。
その顔を見た瞬間ただ事ではないと思ったが、菜都芽の心の傷を思うと余計なことは言えないのだ。
「うん……」
大きく窓を開け放っているせいか、外の音が部屋の中に流れ込んでくる。
テーブルに置かれたアイスコーヒーが、氷で薄くなっていく。
咲枝は黙ったまま、子供の顔と菜都芽の顔を見比べていた。
「スイカ、食べる? 多分冷えてると思うんだけど」
咲枝が、無言の空気を断ち切るように、言葉を発した。
もちろん、その間にも隣の部屋からは何とかレンジャーの『トゥ! ヤーッ!』などの声が絶え間なく聞こえてきていたのだが。
「咲枝!」
立ち上がった咲枝の動きを止めるように、菜都芽の悲鳴にも似た声が飛んできた。
「なによ。びっくりするじゃない」
「ごめん。……あのね、あの……スイカはいらないから」
「そう? じゃあ、私は食べるから」
以外にも、咲枝もKYだった。
「そうじゃなくて、咲枝。……お願い、助けて! このままじゃ、実香が壊れちゃうよ」
そう言うと、泣き出してしまった。
その声に驚いて、隣の部屋のギャングが振り向いた。
泣いている菜都芽を見ると、放置されていたタオルを持ってきて、
「イーコ、イーコ、泣かないよー」
と、タオルで顔をごしごしと拭いてくれるが、化粧がはげるので、やめてもらいたい。
「ありがとう。ギャング」
「こら! 人の子供をギャングって呼ぶな!」
「あー、ありがとう。ギャ……」
「もういいよ。で? 何を助けて欲しいの?」
これだけ人の子供をギャング扱いできるのだから、大して心配する必要もないだろうと、咲枝はため息をつきながら座りなおした。
「この間話したことだけど……」
かなり辛そうだ。
先ほどのタオルをもみくちゃにしている。
「この間? あの、実香の彼氏のこと?」
「うん……。実はね」
話し出したのはよいが、話が進むにつれ、咲枝の顔つきが険しくなってくるのが分かる。
そりゃぁ、誰だってこの展開は怒りを覚えるだろう。
それでも菜都芽の気持ちも交えて、最後まで聞いてくれたのは、ありがたかったのだが、その後の説教がかなり痛かった。
「あんた! 何を考えてるのよ!」
何を考えていたかは、話の途中でちゃんと話したのだが。
「こんな馬鹿なことをして! 実香じゃなくても落ち込むわよ。親友を貶めるなんて、学生時代の菜都芽なら、絶対にやらないことだったじゃない! 社会に出ていろいろあるのは分かるけど、これは酷すぎるでしょ!」
分かっているから何も言えないのだ。
「で! どうするつもりなの!」
「……」
「私だって、彼と別れるように言っちゃったじゃない。どうしてくれるのよ!」
そこを相談に来たのだ。




