62.告白(4)
それにしても、と実香は思っていた。
(千尋は幸せそうね。メールが喜びで一杯。その逆に私はどうなんだろう。全く逆の位置にいるわね)
ケイタイには、千尋から
『本当に幸せ! やっぱり、愛してる人と一緒にいられるって幸せだね。
実香さんには感謝してる。彼と会わせてくれて。実香さんがいなかったら、彼とは出会えなかったんだから。だから、結婚することを実香さんにだけはちゃんと言いたかったんだ~』
と書かれていた。
「なるほどね。結婚かぁ。愛してる人かぁ」
確かに愛している人と結婚することが一番の幸せなのだ。
しかし、その相手に裏切られた自分はどうなるのだろう。
(愛なんて、はかないものよね)
『幸せにね』
そう入力すると、送信ボタンを押した。
あまりにも今の自分とかけ離れたメールだった。
実香は、テーブルに残された数少ない煮物に箸を突っ込むと大きな口を開けて食べ始めた。
家に帰り着くと、自室にこもる。
小さく音楽を流し、ベッドに座り込む。
部屋の中は散らかり、雑誌などが散乱している状態は、実香の精神状態を見事に表している。
「疲れた……」
無理にテンションを上げたせいか、いつも以上に疲れが酷いような気がする。
バイト先に天馬が現れ、頑張って他人行儀にしているのも疲れるが、今回はそれ以上のようだ。
「辛いな……」
タオルケットを頭からかぶり、一番大きなぬいぐるみを抱きしめる。
何をしても、今の辛さが抜けることはないのだ。
「天馬、逢いたい。どうしてあんなことをしたの? どうして菜都芽に襲い掛かったの? 菜都芽じゃなければダメだったの?」
涙が流れ、枕が濡れる。
もう、何日同じ事をしているだろう。
「でも、私よりもずっと辛い思いをしているのは菜都芽なんだよね。
あんなこと頼まなければ良かった。そうしたら、菜都芽を傷つけることはなかったのに」
毎晩、後悔ばかりが押し寄せる。
何度泣いても、何度懺悔しても、何も変わらないのだ。
「菜都芽は私を憎んでいるだろうな。あんなことを頼んじゃったために、天馬に酷い事されて。レイプだもんね。和姦なら納得もいくけど、無理やりにされたら、楽しくもなんともないよ。かわいそうな菜都芽……」
菜都芽のことを考えると、胸がつぶれそうになるのだ。
自分が頼んだばかりに、菜都芽を傷つけることになってしまったのだ。
そんな男だと分かっていたら、こんな計画はしなかった。
何度も何度も、同じ苦しみの中で回り続けている。
部屋の中はよどんだ空気で、室温は三十度を超えている。
それでも、窓を開けようとはしない。
それはまるで、少しでも自らを苦しめることで、菜都芽への償いになればというようだ。
そして、天馬への思いを熱い火で焼ききるように、暑さの中で忘れようとしているのだった。




