60.告白(2)
「そんなことありますよ! 一生懸命元気に振舞おうとしてるのは分かるんですけど、何でそんなに辛そうなんですか? 話せば楽になることもありますよ」
「そうねぇ」
確かに話せば楽になることもあるだろう。
しかし、天馬との事を話したところで、楽になるのだろうか。
「酒に流すつもりで、教えてくださいよ。実香さんが元気がないって、店長も心配してるし、オレも心配だし。いや、俺は店長以上に心配だし」
こんなところで張り合われても仕方が無い。
いつもながら、おかしなことを平気で言ってくる連だ。
「そうねぇ……理由ねぇ」
いつもよりピッチが早いせいか、かなり酔いが回ってきた。
酒に流すという、さっき連が言ったとおり、流れるものなら言ってみようか。
そんな気になっていた。
「うん、どうぞ。力になりますよ」
真剣に聞いている割には、煮物をつまみ口に入れ、漬物を口に入れる。
次から次へと、食べていくのだ。
その姿はどう見ても真剣に聞いているという感じではない。
しかし、その方が逆に楽な気がした。
妙に構えられて、真剣になられるよりは、ずっと楽に話ができるような、おかしな安らぎがあった。
「実はね」
「はい」
「彼と別れたの」
「……」
一瞬箸が止まった。
そして、すぐに動き枝豆がはさまれた。
なぜ枝豆を箸でつかむのか、多分彼なりに動揺し、それを隠す為につまみをはさんだのだろうが、残念なことにはさんだものがいけなかった。
実香は連がその枝豆をどうするのか、じっと見つめていた。
すると、おもむろに左手に持ち替える。
結局、枝豆は左手にあり、箸をおくと今度は右手に持ち替えるという、妙な食べ方になった。
「ぷっ……あはははは」
思わず吹きだし、大笑いしてしまった。
「え? 何がおかしいんですか?」
連には全く分からないらしい。
「だって、枝豆を箸でつかんでどうするかと思ったら、持ち替えてるんだもの。
だったら最初から箸を使わなくてもいいのに」
「え? あ? あぁ、あはははは」
やっと気がついたのか、連が「本当だ」と言いながら大笑いしている。
連の間抜けた行動のおかげで久しぶりに笑えたような気がした。
「実香さん」
「なに?」
笑いすぎて涙が出るとは本当にあるものだ。
いつもこんなことで、こんなに笑っていたのだろうか。
「どうして別れたんですか?」
「それは……。テンション下がるから、聞かないことにしようか」
「そうですか。じゃぁ、聞きません。聞きませんから、オレと付き合ってください。結婚を前提に」
「え?」
付き合ってくださいまでなら分かる。
しかし、その後がいけなかった。
「結婚を前提」とはあまりにも突拍子がなさ過ぎる。
思わず目が点になってしまった。
「え? オレ、何かおかしなことを言いましたか?」
おかしくはないのかも知れないが、連の若さでそれはないだろう。
連があまりに真剣に実香を見つめるので、またしても吹きだしてしまった。
お腹がよじれるほど笑い転げている、ちょうどその時、実香のケイタイが鳴った。
「おっと、メールだぁ」
おかげでテンションがあがった。




