59.告白(1)
あの日から、体の中から何かが抜けていってしまったような、空虚感がある。
まるでパンパンに膨らんで輝いていた風船が、気がつけばしぼんでしまったように。
実香はぼんやりと一点だけを見つめていた。
だが、その目は何も見てはいない。
「実香さん!」
どこからか大きな声が実香を呼ぶ。
「実香さんってば!」
声のするほうに顔を向けると、目の前に連の姿があった。
「何をぼんやりしてるんですか? せっかく、二人っきりなのに」
そうだ、あの日から、あまりにも実香の態度がおかしいので、元気を出して欲しいと、連に連れてこられたのだ。
さっきまでは、確かに楽しくできていた。
クレーンゲームに興じ、つかめないぬいぐるみにイライラした。
シューティングゲームで連に負けて、地団太を踏んだ。
バスケットボールゲームでは連を負かし、音楽ゲームでは点数を競った。
こんな遊びができるのも、年下の連が相手だからで、天馬だったらまるで分からないと言った風に、不思議そうに見ているだけ。
(天馬だったら……)
そう考えると何故か胸が熱くなる。
「実香さん、ぼんやりしてないで、もっとはじけましょうよ!」
とはいえ、さすがに六歳の歳の差は痛いものがある。
いや、年齢の差と言うよりは、連と実香の差なのかもしれない。
以前の実香なら、ゲームセンターが好きで、よく出入りしていたのだ。
ところが天馬と知り合ってからは、ゲームセンターで騒ぐよりは、のんびりと散歩をしたり、部屋でくつろいだりという時間が楽しく思えてならなくなった。
「はじけるねぇ……」
「なんですか?」
大きな声で、ゲームの音に負けないように話す連に比べ、いつもの声で話す実香。
「なんでもないよ。大丈夫、遊ぼう!」
沈んでいたってつまらないだけだ。
それよりも、できることをできるだけ楽しんだほうがいい。
そんなことは分かっていながら、心が沈む。
ひとしきり遊び終わると、「次はカラオケに行きましょうか?」と聞いてくる。
「それとも、ボーリングにしますか? 後は……何があるかなぁ……」
実香の気持ちを盛り立てようと、一生懸命に考えてくれる連。
実香としてはとてもありがたい。
しかし、どうしてもその気持ちにこたえることができないのだ。
「どうしますか? バイト代が入ったから、遠慮しないでください。どっちにします? どっちでもいいですよ」
バイト代なら実香も入った。
同じところでバイトしているのだから、分かりきっている。
それなのに、そういう連が可愛くもある。
「じゃぁ、やっぱりカラオケで発散しましょう!」
そう言うと、同じ建物内にあるカラオケ店へと移動した。
そこで三時間ほど歌って笑った。
しかし、どんなに歌っても、どんなにテンションをあげようと頑張っても、そこに天馬がいないのだ。
むなしい笑いだけが、実香の顔を作っていった。
「なんだか、いつもの実香さんとは違うんだよなぁ」
カラオケ店から出て、居酒屋で焼き鳥をほお張りながら、連が言ってきた。
「一体何があったんですか? オレ、余計なことは聞かないって決めてたんですけど、さすがに気になりますよ」
「そう? そんなことないよ」
ビールを口に運びながら、(やっぱり分かるかぁ。KY連君でも……)と思ってしまう。




