表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/73

55.黒い液体(1)

 休日の午後、木立に囲まれたオープンカフェは、暑さにもめげず結構なお客で賑わっていた。




「どうしたの? 急に呼び出して、何かあった?」




 のんびりと現れた実香を見ながら、どこから話を切り出そうかと、渋い顔の咲枝だ。




「そんな顔して~。まさか、離婚の相談なんてことじゃないわよね」




 そんな冗談を言ってるところへ、注文をとりにきたウェイトレスが、怪訝そうな顔で二人を見ていた。




「そんなこと言うから、ウェイトレスさんがびっくりしてたじゃない」


「修行が足りないよ。ウェイトレスともなれば、客がどんな話をしてても、聞こえない振りをしなくちゃ」




 さすが、喫茶店でバイトをしているだけの事はある。




「そりゃねぇ、バイト暦長いもんね」


「長すぎもよくないよ。いつまでも、バイトって訳にもいかないでしょ」


「うん……まぁね」


「それにしても、暑いわね。夏到来って感じ」


「夏到来はいいけど、ギャングたちはどうしたのよ。良く出て来れたわね」


「ダンナが連れて出てるから、今日はのんびりできるのよ」




 菜都芽に話を聞いてから、すぐに夫に連絡を入れ、実香に会いに行って来る旨を伝えた。


 妻の大学時代の友達が困っていると聞いて、どんな事情であるにしても、まずは、妻の行動を助けるのが夫の務めと、文句ひとつ言わずに子供の面倒を引き受けてくれたのだ。


 そして菜都芽とは、話しづらいだろうと言うことで、駅で別れたのだった。


 菜都芽にすれば、これで咲枝がうまく実香に話をしてくれるだろうから、全てが思い通りに運ぶ形となる。


 咲枝にすれば、久しぶりに子供から手を離して、独身気分を楽しめるというところだ。


 一応、重い任務はあるにしてもだ。




「ふ~ん、良き夫だね~」




 これから展開される話の何たるかを知らない実香は、のんきなものだ。




「でね、話と言うのがね」




 話のきっかけをつかもうと頑張っている時、注文の品がテーブルに置かれた。


 なんとも、タイミングが悪い。

 

 実香は自分の前に置かれたアイスコーヒーを、ストローでかき回しながら、氷のぶつかり合う音を楽しんでいた。


 なぜそのようなことをするのかと言えば、コーヒーがあると天馬を思い出してしまうからだ。


 天馬を思い出すだけで、胸が締め付けられるような、甘い痛みを感じるのだ。




「なにニヤケてるのよ」




 咲枝が、「イヤラしいわね」と言いながら実香を見るが、そんなことでへこたれる実香ではない。




「それで、本題にはいるけど」




 木立の中とはいえ、涼風とばかりはいいがいた。


 小太りの咲枝の額から汗が流れる。


 その汗が、これからの話の内容によるものなのか、単に暑さのせいなのか。


 どちらにしても、実香からみれば暑そうに見えるだけなのだ。




「どうぞ。でもさぁ、離婚の相談は無理よ。経験ないから」


「離婚なんてしないわよ。二人も可愛い息子がいるんだから」


「可愛いギャングの間違えじゃないの」


「確かにギャングかもしれないけど。それはいいけどね。話すわよ!」


「そんなにりき入れないと話せないような内容なの?」


「そうね……」




 咲枝のため息を聞いて、始めて居住まいを正した。




「あのね、実香の彼氏のことなんだけど」


「天馬?」


「う……ん。彼、昨日菜都芽と二人で会っていたでしょ」


「知ってるわよ。私が頼んだんだから」


「その計画があだになったみたいだよ」


「どういうこと?」




 さすがにそこまで話されると、ただ事じゃないだろうことは分かるが、何よりも話の中心に天馬がいるのだから、真剣にならざるを得ないだろう。




「彼も男だと言うこと」


「ちょっと……。それって」


「菜都芽は女性で、彼は男性」


「まさか……。だって、菜都芽からは元気なメールが来てたわよ」




 そう言うなり、菜都芽からのメールを探し始めるが、その手を止めさせるように、菜都芽から聞いた話をつぶさに語りだした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ