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54.SOS(2)

「で? どうしたの?」




 そう促されて、はたと気がつく。




(そうだった。先手を打ちに来たんだった)




 菜都芽は額の汗を手の甲で拭いながら、どこから話したらよいかを考えていた。




「実はね……」




 まずは実香との計画から説明を始め、昨日の天馬とのデート、そして山場となるはずだった最低の夜を打ち明けた。


 ただし、最低の夜のところは大きく脚色されたのだが。




「天馬さんが酔って、もうダメだ歩けないっていうのよ。それで、とにかく酔いを醒まそうという事になって、しばらく歩道の脇で腰をおろしていたんだけど。

彼が、気分が悪いと言い出して、横になりたいって。それで、目の前にあったホテルで休むことになったの。それだけ状態の悪い人だもの、何かがあるはずなんてないじゃない。でも……でも……」

 



 声を震わせて話す菜都芽。


 その先は大人であれば聞かずとも想像はつく。


 いや、今時の学生でも想像はつくだろう。




「菜都芽、あんた……まさか」


「もちろん、抵抗したわ! イヤだって、できる限りの抵抗をしたのよ。でも、結局男の力には叶わないじゃない」




 涙こそ流さないが、その悔しさが伝わってくる。




「実香には言ったの?」




 菜都芽は大きく(かぶり)振った。




「それは言ったほうがいいと思う」


「でも、実香が辛い思いをするんじゃないかと……」


「言わずにそんな男を信じて、もし結婚なんてことになったら、実香が可哀想じゃない!」


「そうだけど」


「結婚は、一生のギャンブルよ。出だしで間違えたら、一生泣かなくちゃならないのよ。そんな男なら、ちゃんと実香に言って、別れさせないと。菜都芽の捨て身の行動が無駄になるじゃない」




(捨て身の行動ねぇ。何もなかったことの方が腹立たしいけどね)




「ちゃんと話したほうがいいよ。菜都芽が言う?」


「言えないよ。実香が可哀想で、無理……」




 消え入るような最後の言葉が余韻を残す。


 咲枝は、菜都芽の心の傷を女の悲しみと思うと、可哀想でならなかった。




「分かった。ここは私に任せなよ。ちょうど、ダンナに子供を任せてるし、このまま実香のところに行って、話してきてあげるよ」


「でも、あまりショックが強くなると……実香は本当に彼が好きだから」

 



 あくまでも実香のための行動と思い込ませる言動。




「大丈夫よ。それより、菜都芽のほうも心配だよ。大丈夫? そんな酷い目にあって」


「私は大丈夫」




(だって、何もないもの)




 心の中で笑いが起こる。




「そう? 菜都芽は昔から強がり言うからな……。とにかくここは、実香にちゃんと言わないと……」




 何かを考えるように、咲枝が二重あごに手を持っていき、そのあごを撫でている。




(これで、実香も天馬と別れるわ。私と同じ。私より幸せなヤツなんて、いなくなればいいのよ!)




 菜都芽の顔は苦悩でゆがみ、心は大声で笑うのだった。



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