52.最悪の目覚め(2)
バスルームから出ると、未だにベッドの上には天馬がいた
その姿は先ほどと何も変わらず、じっと苦悩と闘っているようだ。
「天馬、シャワーを浴びてきたら?」
その声に顔を上げると、バスローブを着た菜都芽が髪をタオルで拭きながら立っていた。
「菜都芽さん……」
「なに?」
「本当に……本当に……あの……その……ですから……」
「やったかって聞きたいの?」
「え、あ……まぁ、はい」
菜都芽はベッドに手をつくと、天馬に顔を近づけ、耳元でささやいた。
「とっても素敵だったわ」
そう言われて、耳まで真っ赤になる天馬を、更に追い討ちをかけるように菜都芽がささやく。
「実香には、黙っていてあげるわね。二人だけの秘密よ」
そう言ったとたんに、天馬の顔が真っ青になった。
菜都芽は天馬から離れると、口元を歪ませた。
「オレは、オレはなんて事をしたんだ。実香を裏切るなんて、俺は最低な男だ。
実香……。どうしたらいいんだ……」
菜都芽がバックからケイタイを取り出し、着信を確認すると、数件のメールが入っていた。
「あら、大変! 実香からこんなにたくさんメールが来てたわ」
そう言うと、楽しそうにケイタイを見せた。
すると、更に震える天馬。
こうなると、面白くて仕方が無い。
菜都芽のいたずら心はどうにも止まらない。
しかも、昨夜は散々プライドを傷つけられ、最後はめったざしにされたのだから、今仕返しをせずにどうしてプライドを保つことができるだろうか。
「ねぇ、天馬。黙っていれば、実香にはバレないわ。そうでしょう」
そう言うと、ケイタイを操作し始めた。
『ごめーん。夕べは疲れて寝ちゃったよー(笑)』
ケイタイを天馬に見せ、「ねっ」と確認するように声を掛けた。
そして、送信ボタンを押す。メールが送られる。
「大丈夫よ。私は言わないわ。私だって、友達の彼氏とやったなんて、いえないものぉ。ねぇ、天馬」
何も言わずに、ケイタイを見つめる天馬に、菜都芽はしがみついて言った。
「一度も二度も同じことよ、どう? 今からもう一度、楽しまない? ふふっ」
大きく頭を左右に振ると、菜都芽の手を振りほどいた。
「そんなに実香がいいの? でも、あなたは私と共通の秘密を持ったんだから、私とは仲良くしたほうが無難よ」
そう言うと、大きな声で菜都芽が笑った。
薄暗い部屋の中に菜都芽の声だけが響き続けた。




