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5.木下咲枝(1)

「ちょうどいいところに来てくれたわ~。

今オムツ替えようと思ってたんだけど、下の子にミルクあげないとならないし、手が欲しかったのよ!」

 



 実香の顔を見たとたん『いらっしゃい』でもなければ、『久しぶり』でもなく、その言葉が飛んできた。


 そして、言葉通りミルク瓶を渡されると、ベビーベッドを指さされた。




 木下咲枝。




 大学時代は、菜都芽同様仲が良かった。


 楽しいことをするのも一緒だったが、もちろん悪いことをするのも一緒だった。


 大学時代は、美人三人組として結構な評判だったのだ。


 それゆえ、彼氏の質で争うことは年中で、誰の彼氏が一番ルックスがいいのか、あるいは頭がいいのか、出身地はどこかなど、たわいの無いことで競ったものだ。


 ただ違ったのは、咲枝だけが学生時代の恋に本気になったことだった。


 そして、彼氏の方も実香や菜都芽と付き合っていると毒されていくと思ったのか、卒業と共に結婚してしまったのだ。




「学生時代はスマートだったのにねぇ」




 実香はベビーベッドの中の赤ん坊を抱き上げ、雑な手つきではありながらも、とりあえず哺乳瓶をくわえさせることに成功した。




「子供ができれば太るのは当たり前よ。ついつい、子供と一緒にお菓子を食べたり、昼寝をしたりするからね~」




 太ったことは、自分のせいではないと言いたいのか、咲枝が笑いながら長男のオムツを替えている。


 それにしても、良く動く子供だと実香は思っていた。




「よくそんなに動くのに、オムツ替えられるわね」




 ある意味特技なのかもしれない。




「母になれば、誰だってできるようになるわよ」




 一丁上がりとばかりに、お尻をポンと叩かれると、二度とつかまるものかと言いたげに逃げていく。




「咲枝がこんなにたくましい母になるとは、誰も思わなかったよね~」


「私だって思わなかったわよ。ミルク飲んだらゲップさせてね」


「月賦より、クレジットで……」


「誰がカードの話をしてるのよ。ゲップさせないと、実香の洋服にミルクを吐き戻すことになるわよ」




 それは困るので、さっさと母親に赤ん坊を渡した。


 渡された咲枝は、『結婚前の予行練習をさせてあげようと思ったのに』と笑っている。




「子供のことは、母になってからでいいよ」




 肩に担いだ赤ん坊の背中をぽんぽんと叩く。


 その姿は、どう見ても優しき母というよりは、『さっさとゲップしろー』と責めたてているようだ。

 

 ひとしきり叩くと、大きく『ゲフー』と空気が漏れる。




「母だね~」


「母だよ」




 当たり前じゃないと笑う


 良く笑う咲枝だ。

 


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