49.今夜はワインで(1)
遊園地から出ると、帰ろうとする天馬の腕を取り歩き出す。
「あの、もうこれで」
「何を言ってるの、大人のデートはこれからが本番よ!」
「でも、あの……」
天馬の頭の中には、今日一日のことを早くまとめてしまいたい、という思いが渦巻いていた。
とはいえ、菜都芽には全く関係ない話で、どんどん天馬が引っ張られる形で歩き続ける。
大人のデートでありながら、そんな風情のかけらも感じられない。
駅までのバスに間に合い、見事駅に到着した頃には、天馬は菜都芽にうまく言い含められていた。
駅の周辺には、ムードのありそうな店が趣向を凝らして、客を招いている。
多種多様なイルミネーションが、恋人たちの心を躍らせる。
「あのお店がいいんじゃないかしら。恋人たちにはぴったりよ」
「いや、ちょっと。気遅れしませんか?」
「そう? きっと、実香も喜ぶと思うんだけど」
「そうでしょうか……。オレは、もう少しランクの低いところがいいんだけど」
「それって?」
「大衆的な居酒屋とかですね」
「それじゃ、単なる友達同士が飲みに来てるって感じでしょ。デートなんだから、ここは頑張りどころでしょ」
と言うことで、店の中に連れ込まれた。
店の中には、静かな音楽が流れ、スーツ姿の女性が隅のテーブルへと案内してくれる。
テーブルにつくとメニューが渡されるが、天馬には全く分からない。
「菜都芽さんと同じものでお願いします」
メニューをチラッと見ただけで、閉じてしまった。
「今後のために自分で決めたらいいのに」
「さすがに、ここに連れて来れるほどの財力はありませんから」
「このくらいの財力がなくちゃ、男として寂しいじゃない」
「まぁ、そうなんですが……」
そう言うと、鼻の頭をぽりぽりと掻いている。
菜都芽は注文を終えると、「実香はワインが好きなのよ。普段はビールだけどね」と言って笑った。
「そうですか、いつもビールだから、ビールが好きなんだと思っていました」
「じゃぁ、今度はワインのおいしいお店に連れて行ってあげたらいいわ」
「そうですね」
やはり、鼻の頭を掻いている。
天馬を見ていると、不思議な感覚に陥りそうになる。
それはまるで、人間ではなく、全く別の存在のような気がするのだ。
菜都芽はワイングラスを傾けながら、天馬に話を向けた。
「天馬は、実香のどこが好きなの?」
「そうですね……」
しばらくの間が空く。
無言の時間が流れるのだ。
それも、今日一日で分かってきた天馬の癖だ。
天馬という人は、真面目に答えようとすると、真剣に考えすぎて、ひとつの質問に対してかなり長く考えるようだ。
菜都芽のグラスが空になり、二杯目を注いだ時に天馬が口を開いた。
「いつも明るいところでしょうか」
これだけ長く考えていて、答えがそれだけと言うのも天馬らしい。




