48.遊園地(2)
天馬は苦笑いを浮かべながら、拷問のようにソフトクリームを食べきることに専念するのだった。
「このままじゃ頭がおかしくなる!」
そう言うと、実香はベッドから勢い良く起き上がった。
とはいっても、何をする為に起き上がったわけでもなく、なんとなく行動なのだ。
「どうする! 何をする? そうだ! 気分を変えよう」
そう言うと、ドアを開け階段を下りると、居間でTVを見ているはずの母の元へと向かった。
ところが、こういう大事なときに限って、裏切りとは起こるもので、母は外出中のようだった。
お化け屋敷は大して並ばずに入場することができた。
一歩踏み込むと真っ暗で足元がおぼつかない。
無音の世界の上にかび臭い。
進んでいくと、お決まりのおどろおどろしい音楽が小さくかかっている。
どう見ても作り物というお化けが顔を出したり、蛍光塗料で塗られた絵が壁に描かれている。
菜都芽は、あんなにもお化け屋敷を楽しみにしていたようなのに、どういうわけかキャーキャー言いながら、『怖い』と連発し天馬の腕にしがみついている。
天馬は苦笑いの連続だった。
ただ思うことは、お化け屋敷がデートに組み込まれる理由のひとつが分かった気がする事と、好きでもない女性にしがみつかれても嬉しくないという事実だった。
お化け屋敷から出ると、菜都芽が「怖かったー」と半分泣きそうな顔をしている。
不思議なもので、どうしてそれほど怖いのに、あんなにもお化け屋敷に入りたがったのか。
しかも、どう見ても作り物の数々だ。
ここでも天馬は苦笑いしながら、次回作に登場する人物は菜都芽にしようと思うのだった。
一方菜都芽は、久しぶりのお化け屋敷に本気でビビッていた。
そして、これほど自分が恐怖に駆られているにもかかわらず、天馬が平然としていることに、頼れる男性というイメージを膨らませていった。
いつもはTVにかじりついている母がいなかった実香は、途方にくれながら台所へと入っていった。
冷蔵庫を開け、ビールを取り出す。
ビールには『父用、飲むな!』とあるが、補充しておけばいいだろう。
他に乾き物などを探し出し、自室へと戻る。
遊び相手のいない実香さんは、ビールを遊び相手に選んだようだ。
「酔っ払って寝ちゃえば、時間はあっという間に経過するんだから」
独り言を言いながら、プルタブを押し上げていた。
「次はメリーゴーランドに乗って、次はこっちのジェットコースターね」
どうやら、十機全てを制覇するつもりらしい。
天馬は目が回るような感覚を覚えたが、ひたすら菜都芽を観察することで、次回作のイメージを膨らませていた。
「やっぱり、絶叫系は楽しいよね~」
朝、挨拶を交わしたときの大人の雰囲気はどこへ行ったのか、今ではまるで少女のようだ。
昼になると、お洒落なレストランにするか、オープンテラスで食べるかと、一人で悩んでいたが、結局天気がよいのに室内はもったいないからということで、オープンテラスで食べることにした。
「天馬! 何がいい? ラーメンもいいけど、ビールにたこ焼きもいいわね」
どういうわけか、「天馬さん」と呼んでいたのが、敬称抜きの呼び捨てになっている。
そして、ビールとたこ焼き、フランクフルト、ポテトフライと小さな宴会が始まる勢いだ。
「どうぞ、食べて。もちろん、飲めるでしょ?」
そう言うと、ビールの口を開けて天馬に渡してきた。
「ありがとう」
天馬がビール缶を持つと、二人の缶がぶつかり、鈍い音がする。
喉を通る、冷たいビールが、疲れた体に染み渡る。
「んー! おいしいー!」
ぐびぐびと喉に流し込んだ菜都芽が、目をつぶって首を振りながら、喚起の声をあげた。
(ビールを飲むくらいで、こんなに喜ぶものなのかぁ)
天馬は逆に、一口飲んで缶を置いた。
喉を通るさわやかさを堪能するという感じだろうか。
しみじみとビールの缶を眺めたり、目の前の菜都芽に、夏のキラキラと光るエネルギーを感じたりしている。
(今日は収穫の多い日だな)
そう考えながら、また一口ビールを流し込んだ。
昼間のビールはかなり回るようで、三本も空にすると、ベッドに転がって爆睡していた。
気がつけば、夕闇迫ると言うよりは、どっぷりと日が沈み、夏の夜が訪れていた。
ケイタイを手にし、菜都芽からのメールを確認すると、三通のメールが来ていた。
『天馬さんは面白い人だね。それに不思議な人だ』
という感想。
『ジェットコースター八機制覇、あと二機!』
という、途中経過。
「ちょっとー! ジェットコースター何機乗ろうと構わないけどさ、そんなことはどうでもいいじゃん、この際!」
『夕暮れだー。良く遊んだ。場所移動するよー』
これがきたのが、閉園時間であろう七時ごろだ。
「一体、何時間他人の彼氏と遊んでるのよー」
目が覚めた途端に目眩がしてくる実香さんだった。




