47.遊園地
休日に、遊園地など来たことのない天馬にとって、全てが新鮮だった。
ジェットコースターに乗る為に、三十分ほど並ばなければならないことや、それだけ並んだのに、実際に乗って遊ぶ時間は一~二分なのだ。
それなのに、誰もが大喜びで両手を挙げて乗ってみたり、悲鳴を上げたりしている。
アトラクションよりも、人物観察の方が楽しくて、天馬の目は常に他へと向けられていた。
「ねぇ、天馬さん! 次はどれに乗ろうか?」
園内案内図を見ていた菜都芽が声を掛けてきた。
「え?」
「もう! 他の女の人ばかり見てたらダメよ」
ちょっと拗ねたような言い方が可愛らしさを強調している。
しかし、天馬には一向に分からないようで、「そんなことないです。人物観察をしているだけですから」と真面目に応えられてしまった。
「人物観察ね~。実香といるときも、そうやって他の女性を見てるの?
人物観察だとか言って」
「実香といるときですか? そうだなぁ……」
しばらく考えていたと思ったら、忘れた頃に返事が返ってきた。
「実香しか目に入ってないですね」
恥ずかしげもなく言ってのけるのも凄いが、今他の女性とデート中なのに、そんなことを言う天馬の神経が凄い。
順番が来ると、二人がけのシートに並んで座ることになる。
何をしても、「こうなっているのかー」と感激とも驚嘆ともつかない言葉が飛び出す。
いったい、どれほどの田舎者と思われているだろうと、菜都芽はおかしくて仕方が無かった。
天馬の不思議な言動や態度、一つ一つに安らぎと穏やかさを感じるのだ。
(こんな人は、初めてだわ。何なのかしらこの人は)
そんな思いが去来する。
最初は定職につかず、単なる根無し草の無責任男だと思っていたのが、いつの間にか天馬の魅力に吸い寄せられているのだ。
その頃実香は落ち着かない気持ちを抱えながら、一人ベッドの上でクッションを抱えていた。
足元に置かれたケイタイを、じっと見つめながら菜都芽からのメールを待っているのだ。
「……こない……こない……なにしてるんだろー!」
と、さっきから同じ言葉を繰り返している。
ジェットコースターから下りると、そのスピード感に足が地に着いていないような感じがした。
天馬はそんな感覚を楽しんでいた。
「次はコーヒーカップにのろう!」
そう言うと、先へ先へと歩いていってしまう。
天馬は、後姿の菜都芽を見ながら(これが実香だったら、どんなだろう)と考えていた。
コーヒーカップのアトラクションもそれなりに並んでいたが、ジェットコースターよりは人気が少ないのか、それとも一度に乗れる人数が多いせいか、回転している人を観察している間に順番がやってきた。
カップの中で向かい合わせに座ると、音楽が鳴り出す。
するとカップが静かに回りだすという、至ってシンプルなアトラクションだ。
ところが、菜都芽は何を思ったのか、カップ中央にあるハンドルを回しだした、徐々にカップの回転速度が増し、周囲が溶けていく。
人々の姿もカップも風景も、何もかもがひとつに溶け合い、全くの異世界のようだ。
自分の体を支えることすら容易ではないのだ。
それなのに、目の前にいる菜都芽だけは大はしゃぎでまわし続け、天馬を見て爆笑している。
音楽が鳴り止み、自然と速度が落ちカップが止まるが、目が回ってしまってどうも歩きづらい。
「しょうがないなー」
菜都芽が、そう言いながらそばに来ると、菜都芽の手を天馬の腰に回し、サポートするような格好になる。
体が密着し、天馬の汗がTシャツを通して菜都芽に移るような気がした。
「すいません。でも、あんなに回さなくてもいいと思うんですが」
「ああやって回すから面白いんじゃない」
どうやら菜都芽は全く目が回らないらしい。
今の体験は、どの場面に組み込めるだろうと考えながら、そこに菜都芽のような女性を登場させたら、面白いかもしれないと思うのだった。
実香は遅々として進まない時計に苛立ちを覚えていた。
「どうして今日は時間が経つのが遅いのよ!」
髪をかきむしったところで、時計の針が早く進むわけもない。
ベッドの周囲に、整然と並べられているぬいぐるみたちを、壁に向かって投げつけるが、それでも何も変わらない。
「もう、本当にー!」
と、吠えてみるが何も変わらない。
当たり前のことなのだが、実香にとっては地獄の苦しみのように感じてならない。
「こんなことなら、こんな計画をたてるんじゃなかったよぉ」
コーヒーカップの余韻で吐き気に堪えていると、菜都芽がソフトクリームを持って戻ってきた。
「ありがとうございます。でも、ソフトクリームは……」
「女の子はね、ソフトクリームが好きなものよ。覚えておいてね。実香とのデートのときに使えるわよ」
そう言って笑う。
しかし、天馬はソフトクリームの甘さとカップの余韻で余計に気持ちが悪い。
「コーヒーカップはね、カップルで乗るとロマンチックなイメージになるから、実香も喜ぶわよ。あとは、そうね。観覧車は必須アイテムよ」
「そうですか。実香も喜ぶんでしょうか?」
かなり疑っているようだが、菜都芽には関係ないようだ。
「もちろんよ~。実香だって、女の子だもん。あれでも」
最後に『あれでも』とつけるところが、女性心理だ。
「さて、それを食べたら、お化け屋敷に入ろうか!」
なんともタフな菜都芽だ。




