45.トリック(1)
今朝の天気予報では、『梅雨は明けてました』と過去形だった。
確かに空は晴れ渡り、ところどころに浮かぶ雲が逆に清清しさを感じさせる。
蝉の声もひときわ力強く聞こえている。
「やぁ、お待たせしました」
そう声を掛けてきたのは、白いTシャツにGパン姿の天馬だった。
「あれ? 実香はまだ来てないんですか?」
菜都芽はにっこり笑うと、
「ついさっき、メールが来て頭が痛いから、今日は来れないって、連絡があったわ」
と言った。
「変だな。俺の方には何の連絡も来てないんだけどな」
天馬がケイタイに目を向けたちょうどその時、ケイタイがきれいな音楽を響かせた。
「実香からだ……」
そう言うとケイタイを開いてメールを確認する。
確認し終えた天馬の顔は多少の困惑を隠しきれていない。
「実香から?」
「あ、ええ、やはり頭痛がするそうです……。あの、」
「しょうがないわね。せっかくだから、今日は二人で楽しみましょうか」
さわやかな笑顔を天馬に向ける。全てが計算の上の行動だ。
あの夜――
「彼の行動に火を点けて上げるわよ」
「どうやって?」
「要するに、彼は単に鈍くさいだけなんだからさ。
だったら、実香の本心と望みと……えーと……実香がどんなことをしたら喜ぶかを、全部教えてあげるわよ。そしたら、彼ももっと自信を持てるんじゃない?」
「でも……」
煮え切らない女心。
「行動に起こして欲しいんでしょ。実香は怖がってるだけじゃない。昔の実香ならそんな風に怖がらなかったわよ」
「そりゃ、そうだけど」
「実香が好きそうなことを、彼に教えてあげるわよ。電話じゃ無理だから、三人で会うことにして、当日は実香が体調不良でこれないって、ドタキャンしてくれればいいよ」
「それって、二人っきりで会うってことじゃない!」
「私を信じられない?」
菜都芽の言葉は『信じられないならいいのよ。一人でいつまでも悩んでいたらいいわよ』と、突き放すような冷たさがあった。
「信じられないわけ無いよ。昔から菜都芽と咲枝と三人で助け合ってきたんだから」
「だったら、お膳立てしてよ。今度の土曜日なら、空けられるわよ」
「うん……」
「やるの?! やらないの?!」
強い口調の菜都芽に、押される形で今回のトリックが遂行されることになった。




