38.草食系か? ホモか?(2)
「で、どういうことだと思う?」
「どういうって、草食系なんじゃないの」
鉄板で縮んでいきながら、香ばしい香りを放つ肉たちに、ウエルカムと頭を下げる菜都芽に、「真面目に相談にのらないと、割り勘だからね!」と脅しに入る実香さん。
「はいはい。でもさぁ、本当に草食系としか言いようがないじゃない」
「大体、草食系ってなによ」
「今をときめく草食系男子。いいじゃない、流行りだよ」
「流行りじゃなくてもいいんだけど」
「自分で惚れたんでしょ~。天使ぃ」
「そうだけど、天使なんだけど。天使って、変人ってことなのかなぁ」
「さぁね~。でも、男子であることに変わりはないから」
「そうだけど、健全な男子が、ナイスバディの実香さんをみてスルーするって、
信じられないんだけど」
「ナイスバディねぇ。それはどうか知らないけど。結構、実香と付き合ってるのは世を忍ぶ仮の姿だったりして」
「どういうことよ」
「女性をスルーするってことは、男ならOKとか」
ニヤニヤしながら、鉄板の肉をつんつんしている。
そのつんつんが何を意味しているのか。
それは、やけ具合を見ているのだろうが、実香にしてみれば神経をつんつんとつつかれているようで、むかつく。
「そんなわけないでしょ!」
「まぁね、ないと思いたいよね」
憮然とする実香を、横目で笑う菜都芽だが、楽しんでいるのは言うまでもない。
「食べないの? せっかくなのに、食べちゃうからね」
自分の皿に肉を乗せ、次の肉を鉄板に綺麗に並べていく。
そうしながら、ビールを口に運ぶのだから、なかなか器用な菜都芽だ。
「食べるけどさぁ」
「そんなに不安?」
「不安っていうかさぁ」
実香もビールを口につける。
さすがに季節も変わって、夏が近づいてきているだけに、ビールも更においしさを増してきているようだ。
菜都芽が「ビールってさ、冬より夏だよね」とよく言うが、確かに暑い時に飲むビールは格別のような気がする。
「だったら、自分から襲っちゃえばいいじゃない。そしたら、ホモか草食系かはっきりするでしょ。単なるホモなら、拒むんじゃない」
「単なるホモって。でもさ、バイってこともあるじゃない」
バイとは、言わずと知れたバイセクシャルのことだ。
つまり、男性も女性も両方好きだということだが、そこまで自分の彼氏を信じられないというのも哀しいことだ。
「なるほど~。バイね~。でも、バイなら女も好きなわけだから、とりあえずOKじゃない」
何がOKなのだろう。
「OKでもないけど」
肉が焼けて、菜都芽に取られる前に皿に入れる。
久しぶりの焼肉とビールだ。堪能しない手はないだろう。
「んー、何がそんなに心配なのかなぁ」
「だから、草食系だって、男じゃない。それなりのムードになったら、普通はくるでしょー」
「私は草食系にあったことがないから、分からないけどね。でも、彼らはとっても優しいって聞くから、いいじゃない」
「そうだけど。違うよ、だから草食系も男でしょ」
結局、ビールが進むにつれ、どんどん話の内容がめちゃくちゃになっていき、何が心配で何が不安なのか、実香自身にも分からなくなってしまった。
「じゃぁさ~。私が試してあげるよ」
「試すって?」
「彼が草食系だったら、他の女性には目もくれずに、一人実香だけを思うはずでしょ~」
「うん」
「でも、彼が実香に女性としての興味がなくて、襲ってこないなら、私にはアクションを起こすでしょ」
「それって、私より魅力があると自負してるように聞こえるけど」
「聞こえるんじゃなくて、事実だから」
かなり酔っ払っている二人だ。
周囲の客がこの話を聞いていたら、なんという会話だろうと喜ぶところだ。
だが、どのテーブルも、自分たちの会話を楽しんでいるので、実香たちに興味を覚える余裕はないようだ。
「どっちになるかは分からないけど、私がしっかりと見定めてあげるわよ。
そしたら、実香もどんな男なのか分かるから、付き合い方も決まるでしょ」
「えー、付き合い方も何も、好きなんだけど」
「でも、不安なんでしょ」
「そうだけど。でもね、草食系だっていいのよ」
「いい割に、食いついてくるよねー。てか、実香には肉食系男子の方がいいって。
彼を諦めて他に行けば?」
恋愛相談もここまで行くと収集がつかなくなる。
「とにかく、一度私に会わせなさいよ。悪いことはしないから」
それを言うなら、「悪いようにはしないから」だろう。
「悪いことってー」
と、大爆笑だ。
そして、そこから先は悪いことってどんなことだろうと、妄想の世界に飛んでしまったのだった。




