29.初デート(1)
「それで? デートはどうだった?」
つい三十分ほど前まで、天馬と会っていた実香だが、今はおしゃれなイタリアンレストランで菜都芽と共にワインを楽しんでいるのだ。
店内には大きなツリーが飾られている。
いつもは黒いエプロンをつけているスタッフも、今日はサンタクロースの衣装を身にまとっている。
店内を見渡せば、あちこちに恋人たちの姿が目に映る。
テーブルの上に置かれた小さな花。
その中央に灯るキャンドル。
おいしい食事とおいしいワイン。
雰囲気の良い店内と調和するように小さな音量で流れるクリスマス・ソング。
まるでそれらは、恋人たちのために作られた、クリスマス色の城のようだ。
この状況下において、実香の心は平成を保ち、穏やかだった。
かつての実香なら、恋人のいない自分を棚に上げ、恋人同士で手を繋ぎ、腰を抱き寄せている人たちを見ては多少のフラストレーションを感じていたはずだ。
ただ、それを表立って現すことは、年齢的にも余計に悲しくなるからやらないだけなのだ。
今は、周囲の恋人同士を見ても笑顔になれる。
自分が置かれた立場で、ここまで感情を左右されるというのは、実香だけではないだろう。
「楽しかったわ~」
グラスに注がれたピンク色のワインを、蛍光灯の明かりに透かせながら、その光の屈折を楽しんでいた。
これが恋するが故の余裕だろうか。
「どこに行ったの?」
「どこって……」
実香はちょっと考えた。
それは、あまりにも今までと違いすぎたからだ。
今までの彼氏たちは、最初のデートこそ力を入れて、身の丈よりも上のデートコースを考えてくれた。
実香を楽しませようと、頑張ってくれたのだ。
ところが、天馬とのデートは変わっていた。
お金がないということもあるのだろうが、ただひたすら歩くだけだったのだ。
待ち合わせの場所から、近くの公園へ行った。
市民のための公園はかなりの敷地を有し、その中をひたすら寒さに耐えるように歩いたのだ。
時々とまってはベンチに腰を下ろし、冬の景色を楽しむように語らった。
「それで楽しかったの?」
運ばれてきたばかりのピザを手にしながら、菜都芽が驚いたように聞いてきた。
その聞き方は、全く理解できないと言いたげだ。
「そりゃぁ、私だって最初はどこかに行くんだと思ってたわよ」
まさか歩きとおして終わるとは思わなかった、と言うのが本当のところだ。
しかし、話していると楽しくて、そんなことはどうでも良く思えてきたのだ。
天馬の口から出る言葉は、まるで物語のようだった。
「冬の色は何色だと思いますか?」
景色を眺めているだけで、まさかそんなことを聞いてくるとは思いも寄らなかった。
あまりに普段とかけ離れた質問に、実香は戸惑い言葉を失っていた。
「白という人が多いような気がするんですが、実香さんは何色だと思いますか?」
「そうね……。やっぱり、白かしら」
「そうですね、冬は透明感がある。身を切るような冷たい風、全てを凍らせる力を持っている。それらは、大地を包み全てを白銀の世界に変えることさえできる。
冬は、女性的でもあり、男性的でもあるように思う。でも、良く考えれば、どの季節も同じかもしれないな。ああそうか、春は女性、秋は男性……。
いや、秋は失恋の秋と言うから、やっぱり女性的……んー。何だろう」
といった具合に、人に聞いているのかと思うと、自問自答に入ってしまう。
いつの間にか自分の世界にいるという、一言で言うなら【変な人】だ。




