27.コーヒーと天馬(1)
師走の空は、実香の心のように良く晴れていた。
自然と鼻歌も出てくるご機嫌な実香さんに対して、落ち込んだように暗い表情の連。
そんな連をニヤニヤと、笑いを浮かべながら見ている店長。
「なんで俺のことをニヤニヤしながら見ているんですか。仕事してくださいよ」
面白くなさそうに、店長に言う連。
「そりゃぁ、お前。そんなに暗い顔されてたんじゃ店が暗くなる。
実香のように明るく、笑顔を出して仕事してくれないと」
「俺だって、そうしたいですよ」
「気持ちの問題だろ」
「失ったものが大きすぎます」
「手に入れてないんだから、失ってもいないだろ」
さすが年の功だ、鋭い。
「……もう、いいです。店長には分かりませんよ」
「そうやって、ガキみたいに拗ねるな。だから、振り向いてもらえないんだよ」
「だ・誰が振り向くって言うんですか!」
心の中を読まれたようで、うろたえながらも、何とか立て直そうとする連だが、店長相手ではどうすることもできないようだ。
「大体、俺が落ち込んでいるかなんて、店長に分かるわけないじゃないですか!
店長に何が分かるっていうんですか! 店長みたいなおじさんに。
もう恋なんて遠い過去の人に……分かるわけないですよ」
勢い込んで言ってはみたが、だんだんと語尾が消え入るように小さくなってくる。
店長はそんな連を、面白いヤツだなという顔で見ているのだ。
格好のおもちゃになっていることに、連は全く気がついていないようだ。
「何をしているの? 手が止まってるわよ。店長も、暇つぶししてないで、時間があるなら厨房の掃除をしてください」
店先の掃き掃除を終えて、店内に入ってきた実香が二人を見て言った。
それはまるで、男子が掃除をサボっているのを見咎めた女子のようだ。
二人は顔を合わせると掃除に取り掛かった。
店を開けて一時間もすると、ちらほらと客の姿が見えてくる。
忙しすぎるということはないが、それでも多少は狭い店内を歩き回らねばならない時間があるものだ。
常連が新聞を広げながら、コーヒーを飲んでいたり、商店街の人がクリスマスキャンペーンを開催するからと、広告を持ってきたり、犬の散歩途中の親子が暖を取りに寄ったりと、結構いろいろな人が出入りするのだ。
そんなにぎやかな時間が過ぎると、いつもののんびりとした、佇むだけの時間がやってくる。
実香と連はカウンターに背をもたせ掛けるように、のんびりと店内に流れる音楽に耳を傾けていた。
時々、思い出したように幸せそうな笑みを浮かべる実香とは対照的に、実香をチラチラと盗み見ては、深くため息を吐く連。
厨房では、新メニューを模索中の店長。
毎度のことだが、新メニューだと言って作るものに美味しいものがないのが残念である。




