21.指定席(1)
毎日が同じように過ぎていく。
ただ違っていたのは、ある日を境に穴あきセーターの君が時間になっても現れないことだった。
(どうしたのかなぁ……)
ぼんやりと彼の指定席を見つめていると、いつの間にカウンターにいたのか、店長が独り言のように話しかけてきた。
「来ないねぇ、彼氏」
『彼氏』と言われても、どの『彼氏』なのか分からない。
「彼氏? 店長の彼氏ですか? ……とうとう、バラ族に走りましたかぁ」
と言ったとたんに、頭をパシリと叩かれた。
「いったーい。店長、酷い!」
「痛い分けないだろ!」
確かに痛いほど叩かれてはいない。
そんなやり取りを隣でぼんやりと見ている連が「彼氏ってだれですか?」と、やはり同じ質問を繰り返している。
「お前らねぇ……。来ないねって言ってるんだからさ、分かるだろ」
「分かりません」
こういう反論は結構声が大きい。
はっきりとものを言うのは良いことだが、冗談交じりに言う術を覚えた方が、世間は生きやすいぞと内心思っている実香さんだ。
店長は、しょうがないヤツだなと顔を歪ませているが、内心殴りたいところだろう。
ただ、実香のように長い付き合いではないので、殴るわけにはいかないのだ。
店長は大きくため息を吐きながら、あごで指定席を示した。
「あぁ、PC持ってくる人ですね」
「そうだよ。もう何日来てないかなぁ」
「4日目」
実香が答えると、店長が『4日かぁ』と繰り返す。
さすがに毎日来ていた客が来なくなると、寂しさがこみ上げて来るものだ。
実香も同様、毎日会うはずの客が来ない寂しさを感じていた。
ただ一人、そんな寂しさとは無縁の者がいるが、年齢の違いのせいなのか、それとも性格なのか、深く考えても仕方がないので、気にしないことにして実香と店長は黙ってしまった。
「本当に、今日も暇ですね」
ここは静かにしていて欲しいところだが、KYの連には理解ができないようだ。
実香はちょっと考えてから「テーブルの上の砂糖を補充してくれる?」と連に仕事を申し付けた。
連はにっこり笑うと、厨房から砂糖を持ってきて、テーブルから砂糖の入れ物を回収する作業に取り掛かった。
店長は実香の気持ちが分かったのか、いつになく黙ったまま、静かに笑うだけだった。




