18.連の恋心(2)
「実香さんは、彼氏を欲しいとは思わないんですか? もう、諦めてるとか?」
なんとも失礼な言動だが、連としては悪気がないのだから、困ったものだ。
「彼氏が欲しいと言うか、いたらいいわね。さすがに、独り身が長いかな」
「どのくらい独りなんですか?」
「春くらいからかしらね」
「長いですね~」
余計なお世話だ。
「そういう連君は、どのくらい独りなの?」
「俺は、二十年間独りです」
と俯きながら答えるが、二十年間独りと言うのは、さすがにリアクションのとりようがない。寂しすぎる。
「彼女作らないの?」
「欲しいけど、年下とか同い年とかって好きじゃないから」
確かそんな話を聞いたことがあったと、実香は思い出していた。
薄暗い店内に、連のつまらなそうな顔が浮かぶ。
「何度か、年下とか同じ年の女の子から告白はされましたけど。
付き合う気にならないんです」
「付き合ってみたら、案外フィーリングが合うかもしれないのに」
とは言うものの、連の性格では無理があるだろうなと思う。
決して頼れる男性と言う感じではないのだ。
まるで尻尾を振ってついてくる子犬と言う感じだ。
これでは、女性としてはお断りしたいところだろう。
よほど母性本能の強い女性でない限り難しいと思う。
「俺は……実香さんがいいんだ」
若干声が小さい。
今まで大きな声で、好きなように話してきた連と違い、俯いてワイングラスを撫でているのだ。
その姿はウジウジしている女の子のようだ。
いや、今時の女の子でも、そんなにウジウジしている子はいない。
(ある意味、珍しい人種かもしれない)
実香はワイングラスに口をつけたまま、じっと連を見ていた。
見ていると言うよりは観察しているという感じなのだが。
「実香さん」
しばらく黙っていた連が、意を決したように顔を上げると、真剣な眼差しで口を開いた。
「なに?」
逆に実香の方は、真剣み等まるでなく、どんな面白いことが起こるのかと期待で胸を膨らませているという感じだ。
「俺……」
「はぁい?」
「俺」という一言を口にして、また黙る。
実香は次に出てくる言葉が何なのか、予想できてはいるのだが、この坊ちゃんがどう言葉を繋ぐのか興味津々なのだ。
そんな実香の思いなど想像する余裕すらなく、連は汗ばむ手をもじもじと動かしながら、やっとの思いで次の言葉を口にした。
「好きです」
その声は、残念ながら店内を流れる音楽よりも小さく。
実香の耳には届かなかった。
「はい?」
「……う……」
実香が小首をかしげ、聞こえないのか「はい?」と返されると、連はもう何も言えなかった。
なぜなら、彼の過去にそのような返答はありえなかったからだ。
唯一彼を愛し続けてくれている母は、彼がどんなに小さな声で話しても「はい?」とは言わなかった。
年上の女性は、すべてが母のように深い愛情と優しさでできていると信じ込んでいただけに、実香のたった一つの疑問符が心に突き刺さったのだ。
そして、哀しいことに連はボロボロと心が折れていき、修復するまでに時間を要するのだった。
「なんでもありません」
「そう? もう少し大きな声じゃないと、BGMに負けてるわよ」
そう言って笑う実香は、年上の意地悪さを見え隠れさせていた。
連のクリスマスがまたしても霧の彼方へと消えていった。




