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17.連の恋心(1)

 十二月を迎えると、いよいよ町は活気付き、クリスマスムード一色となる。


 商店街では、あちこちの店先にキラキラとしたモールが飾られ、ウインドーにはサンタタクロースやトナカイが白くスプレーされている。


 流れてくる音楽はクリスマスソングとなり、店先には小さなツリーが飾られる。




「実香ちゃん! もうすぐクリスマスよ。新色のリップが出たのよ。どう?」




 と勧めてくるのは、化粧品店なのか雑貨屋なのか理解に苦しむ店の奥さんだ。




「実香ちゃん、実香ちゃん! 彼氏とのクリスマスには、うちのケーキでラブラブ度アップだよー!」




 と実香の名を連呼するのは、ケーキ屋のおじさん。


 花屋の前を通れば「クリスマスの夜は、ムードを高めるためにお花を飾ったらいいわよ~」と笑顔を向けられ、本屋に至っては「彼とのクリスマスの過ごし方を伝授してくれる本があるよ。この本はいいよ~。これを読めば彼氏とうまく行くこと間違いなしだよ!」


 と恋人いない暦五十年(推定)の店主に声を掛けられる。


 さすがに高校生の頃から商店街でバイトをしていると、顔を覚えられるばかりか、声を掛けてもらえるので嬉しい限りだ。


 だが、彼氏のいない今、クリスマスの恋については触れないで欲しい。




「分かります! 俺も、真面目にキレそうになりますよ」

 



 そう言いながらワイングラスを傾ける連といるのは、商店街から離れた場所に位置するイタリアンレストランだ。


 店内には、程よいくらいに小さな音量でクリスマスソングが流れている。


 この程度なら、恋人のいない者同士でも嫌味にならないから不思議だ。




「商店街を通ると『お兄ちゃん、ハンプティのバイトだろ』って、よく知ってるんですよね」




 確かに、あの商店街はすべてが筒抜けなのではないかと思うほど、みんな良く知っている。




「しかも本屋さんは『この本を読めば彼女ができるよ』って言うんです。

本のセールスなんて初めてですよ」




 確かに、他の本屋ではありえないように思う。


 それより、彼女ができる本があるなら、自分が読んで彼女を作ってみればよいと突っ込みたくなるが、それを言ったら大変なことになりそうなので言えない。




「実香さんも『彼氏のできる本』なんて、押し売りされたことないですか?」




 笑いながら聞いていた実香に、聞きづらいことを平気で言うところが、ぬるま湯のような家庭で育った連らしい。とはいえ、そのKY発言は許したくないのが本音だ。




「あのねぇ、連君―」


「それにしても、今日は嬉しいな~」




 異論を唱えようとしても、実香の話を聞いていないのか、聞こえないのか、もしくは意図的なのか、見事に話をかぶせてくる。

 

 さっきからこの状態なので、聞き役専門に徹するしかない。


 会話のキャッチボールができないのだ。




(仕事中はこんなに酷くなかったのにな。今日はどうしたんだろう)




 さすがに、一人で舞い上がるようにしゃべり続けられると、聞いている方も疲れてくるが、そこは大人としての対応だと自分に言い聞かせながらワイングラスを傾け、料理の数々を堪能しているのだ。





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