15.1ピースの恋(1)
榎本連が来て、ひと月が過ぎようとした頃には、外は木枯らしが吹き始めていた。
町のあちこちにクリスマスをにおわすように、ケーキのポスターが貼られていたり、コンビニなどにはケーキの注文票がこれ見よがしにおかれている。
恋人のいないものにとっては、大変寂しい季節だ。
「ここってクリスマスの飾りってやらないんですか?」
新人君が店内を見回して聞いてきた。
どの辺に大きなもみの木を飾ろうかと考えているのだろう。
「やるよ。小さなクリスマスツリーを、申し訳程度に飾る」
実香がエプロンのポケットに手を突っ込んだまま応えた。
「小さいのかぁ。ちょっと期待したんだけどなぁ」
「そんなに大きなもみの木がよかったの?」
「イメージ的に、喫茶店には大きなクリスマスツリーがあるんです。
俺のイメージですけどね」
なんとも可愛いイメージだ。
そんな大きなツリーを飾ったのでは、店内を見渡せなくなってしまう。
「実香さんって、彼氏さんとかっていないんですか?」
これが今のところ一番つらい質問だ。
二六歳を迎えてから、ピタリと恋愛の女神が微笑まなくなってしまったのだ。
『二ヶ月も彼氏がいないなんてー!』とほえていたのがはるか昔に思える。
「残念ながら、いないわね」
「そうなんですか。寂しいですね」
余計なお世話だ。
「知ってますか? 心にピタリとはまる恋のことを《1ピースの恋》っていうんだそうです」
真面目に聞いたことがない。
「へぇ、そうなの。誰が言ったの?」
《1ピースの恋》などと、ちょっとロマンチックではないか。
「へへへ。実は、俺が考えたんですけどね」
それで知ってますかと言われても、知っているはずがない。
「綺麗な言葉ね。それで、どういうこと?」
連が嬉しそうに笑顔を浮かべると、実香に向かっていった。
「好きな人ができて、その人が自分にとって安心できる人だとか、心が休まるとか、一緒にいて穏やかになれるとか。そういう気持ちが湧く相手が本当の愛する人だと思うんです」
「なるほど……」
「まるで、パズルの1ピースが心にピタリとはまるように、その相手は自分の心にはまる。だから《1ピースの恋》という」
なんとも女の子のようなことを言うなぁと、実香はマジマジと連を見つめた。




