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14.新人君 連(2)

「店先に新人君を一人にしてたら可哀相ですから行きます」


「ちょっと待て。あのな……」




 言い辛そうに言葉をつなげる。そんなにいい辛いのなら、言わなければ良いものを。




「千尋のように、あっという間に恋に落ちないとも限らないだろう」


「はぁ? 誰が?」


「ヤツが」


「誰と?」


「実香と」




 思わず大笑いしてしまった。ところが店長は大真面目に実香を見ているのだから、余計に笑える。




(そりゃぁ、私ほどの美人ならありだけど)




 と喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。




「新人君はいくつなんですか?」


「確か、二十歳だ」




 思わず言葉に詰まる実香さん。脳裏を横切るのは、つい最近厄介払いしたばかりの二十歳の男だ。


 今、新人君とどうかなるくらいなら、あの時躊躇せずに遊んでいただろう。




「ありません!」




 一音の淀みもなく五文字を言い切ると、実香は肩を怒らせて厨房から出て行った。




(全く、何を考えてるのよ! 自分が若い子が好きだからって、私まで若い子と付き合うとかってありえないから!)




 新人君の前に一歩を踏み出した瞬間、自分に言い聞かせた《笑顔》の二文字。


 実香はにっこりと笑うと




「分からないことは何でも聞いてね。仲良くやりましょうね」




 とウインクして見せた。


 思わず連の頬が染まったことに、気がつかない振りをした実香だった。




 さすがに若いせいか、仕事の覚えは早かった。


 そして、男性と言うことで結構な力仕事が連の担当となった。




「助かるわ~。ひとつひとつは軽くても、箱になると重いのよね」




 一番忙しい時間帯でも、二十あるテーブルが埋まらない軽食喫茶だ。


 空いている時間が多いので、重いものを運んだり、高いところの掃除を頼んだりと、かなり重宝に使わせてもらっている。




「連君が来てくれて、助かったわ~」


「そうですか?」




 そう言われると嬉しいなと言いながら、ベビーフェイスがさらにベビーに見える笑顔を向けてくる。




「大学生だよね」




 社会人とは違って、どこか甘えた顔つきなので、学生であることは歴然だ。




「はい、そこの通りをまっすぐ言ったところの、K大学です」


「へぇ、あそこなんだ。あそこって、農学部がメインじゃなかった?」


「メインはそうですが、少数派として普通科があるんです。ちなみに、女子は農学部の方が多いですけどね」


「あら、そうなんだ。連君はモテるでしょ」


「そんなことないです。俺は、年上が好きだから、あそこには俺が興味を惹くような人がいないんです」




 バイトも日数を重ねると、あれやこれやと話題も深いところへと進んでいく。


 そうなると、聞いてもいないことをポロポロと話し出す。


 心を開いてくれているのだろうが、別段興味のない男性の趣味を聞こうとは思わない。




「そうなんだ」


「はい、一歳や二歳上だと子供っぽいんですよね。やっぱり女性は五歳以上うえの方が魅力的ですね」




 聞いていると、年上好みだということが分かるが、そう言いながら実香にラブラブ光線を向けてきている。


心中またか……と言いたくなる。




(今度は年相応の大人がいいなって思ったのに、何で学生? 何で二十歳? 神様これは、一度は二十歳を味わってごらんという啓示でしょうか?)




 と訳の分からないことを考え始めてしまう。


 連と話が弾んでいると、厨房から刺すような視線を感じる。


 実香は(痛いなぁ)と心の中で呟いていた。


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