13.新人君 連(1)
千尋が『ハンプティ』を去ってから、しばらく店の入り口に《アルバイト募集》の貼り紙があった。
北風が貼り紙を剥がしにかかった頃、新しいバイトがやってきた。
「はじめまして、榎本連です。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げてきたのは、顔のつるんとしたベビーフェイスの青年だった。
「よろしく。柿野実香よ」
実香はにっこりと笑って見せた。
「おい、実香。ちょっとこっちに来てくれ」
呼ばれて厨房へ入っていくと、苦い顔をした店長が実香を待っていた。
「何を変な顔をしてるんですか?」
「俺は可愛い女の子が良かったんだが、いつまでもバイトが一人では手が回らない。そこで、今回は致し方なく、ちょうど貼り紙を見て入ってきたヤツに決めたんだが……」
酷い言い様だ。
「だったら女の子が入ってくるまで一人でも良かったんですよ」
「いやいや、実香一人では、本当に忙しくなったときに手が回らなくなる」
永いこと『ハンプティ』にいるが、一度だって手が回らなくなるほどの客数にめぐり合ったことが無いのだ。
また、百歩譲ってそんなことになったとしても、来る客は常連ばかりなのだから、手伝ってくれる人がいたり、のんびりと新聞を読んで待っている人がいたりと、いたってアットホームなのだ。
「だから、仕方なく野郎でも我慢したんだ」
かなり強調してくるが、よほど女の子が良かったらしい。
実香は深くため息を吐いた。
「で? 何が言いたんですか? 単なる愚痴なら、後にしてくれますか?」
「愚痴ではないぞ! ヤツは若い!」
そりゃ、店長よりはバイトのほうが若いだろう。
これで三十路のバイトが来たとしても、店長よりは若いはずだ。
「若いのは見れば分かりますよ」
「この間の千尋のこともある」
思わず心臓がつかまれたような痛みを感じた。
未だに後ろめたさがあるようだ。
「千尋とあの子とは関係ないじゃないですか」
「いや、俺が危惧しているのは、関係の問題ではなくてだ」
なにやら、いつも以上に歯切れが悪い。




