11.嵐の後で(1)
「へぇー、それで悩みは見事解決したんだ?」
週末の居酒屋には活気が満ち溢れていた。
あちこちから酒に酔った客たちが、大声で訳の分からない話を繰り広げている。
早くも舌の回らなくなった仲間同士が、会社の愚痴や上司への怒り、あるいは仕事の不満をぶつけている。
そんな中、実香は菜都芽とビールジョッキを傾けていた。
「そうそう、見事解決よー。まさか、こんな近くにマッチングできる相手がいるとはね~。灯台の足元暗いってねー」
「灯台元暗しでしょ。でも、よかったじゃない」
「本当。よかったよー」
あれから早々に相手に連絡を取り、千尋を合わせるべく時間の調整をしたのだ。
千尋の方も、本気で彼氏が欲しかったようで、高校生らしくない服装で挑戦してくれたのが功を奏した。
三時間ほど三人で遊んで別れた後、即効実香のケイタイが鳴ったのだ。
それは、『大好きだー』の代わりに『美香さんには大変申し訳ないのですが』という文面から始まっていた。
その出だしを読んだ瞬間、実香がガッツポーズをしたのは言うまでもない。
『実香さんには大変申し訳ないのですが。どうやら、ぼくのハートは千尋さんに盗まれたようです』
「もう、どんどん盗まれちゃってーって感じだったよ」
目の前の鍋をつつきながら、実香が嬉しそうに奇声をあげた。
「そりゃそうだろうね~。それにしても、節操のない男だね~」
菜都芽がジョッキを空にすると、呼び出しボタンを押す。
一部屋ごとが区切られているので、テーブルには呼び出しボタンが設置されているのだ。
おかげで、酔客が騒いでもそれほど迷惑というわけではない。
悩みの元凶と出会った居酒屋は、隣との仕切りもなく、酔った勢いで隣と会話が成立してしまうという、魔のスポットだったのだ。
今回は同じ鉄を踏まないようにとこの店にしたのだが、見事な教訓になったというわけだ。
「それで、その後はどうなったのよ」
その後の展開が気になるようで、先を促す菜都芽だ。
「で、とりあえずお約束ですから、『そんな……。酷いわ』ってメールを送ってあげたよ」
「相変わらず、うそつきだよね~」
「うそつきは余計だよ。これは、恋愛をする上での大切なお約束だから」
と、言いながら笑っている。
「そしたら、彼はどうしたのよ」
「彼ねぇ……」
鍋の中から鶏肉を取り出すと、ふーふーと息を吹きかける。




