1.柿野実香(1)
今回は長編をアップします^^
コメディータッチの恋愛話です。
――安心と安らぎを与え
穏やかさと満ち足りた幸福をもたらす
それが、《1ピースの恋》――
1.柿野実香
柿野実香
いわゆる、フリーター。
なぜフリーターなのか?
親はもちろん、ちゃんと仕事に就くようにと願っている。
それゆえ、大学にも行かせた。
ところが、ご本人は大学に通っているうちにバイトの気楽さに目覚めてしまった。
「どうせ女の子だもん。
結婚して子供でも出来ちゃったら、仕事辞めちゃうし~。
アルバイトだって、同じじゃな~い」
と思ってしまった。大学まで出して、そんなことを考えるのだから、親としては情けない限りだ。
さて、柿野実香さん。
彼氏いない暦二ヶ月です。
普通の人からしたら、二ヶ月と言うと、最近別れたばかりなのか……、と思うだろう。
ところが、ご本人としては二年に相当するようで、「ちょっとー、二ヶ月も彼氏がいないなんて信じられるー。冗談じゃないよねー」と語尾が上がってしまう。
聞いてるこちらの方が、冗談じゃないと言いたい。
そんな実香さんにも、(とうとう)彼氏が出来そうな気配だ。
「えー、そうなんですかー。彼氏さんって、どんな人ですかー?」
バイト仲間の千尋が聞いてきた。
千尋というと、何処かで見たような聞いたような名前だが、かの有名なアニメとは全く持って無縁だ。
「えー、そりゃーさー。どんなって、足が二本で手が二本で耳が二つ」
「それ、やばくないですか?」
「なんでー」
「全部二つずつあるじゃないですかぁ。普通、ひとつのものもあるけど、全部ふたつって人間離れしてますよね」
「なるほどね~。そういえば、口はひとつだったな」
「良かった~。と言うことは、まともな人なんですね」
話している方はまともではないように思える。
「そうそう、まともよ~」
狭い店内での会話は、小さな声で話しているはずなのに、筒抜けに聞こえてしまう。
「なんだい。実香ちゃん、彼氏ができたのかい?」
そう聞いてきたのは、厨房担当の店長だ。
ここは、実香が高校生の頃からバイトしている軽食喫茶だ。
大学卒業と同時に辞めるつもりだったのだが、どういうわけか未だにここでバイトをしている。
実香としては、気心の知れた店長の下で仕事をしていた方が、わがままも聞いてくれるので好都合なのだ。
別段、何のバイトであろうと実香にとっては関係ない。
「できたって言うかぁ。付き合ってくれって言われたから、付き合ってみてもいいかなって。もう、二ヶ月も彼氏いないしね~」
「実香さんが二ヶ月も彼氏がいないのって、珍しいですよね」
「そういえば、実香に彼氏がいないのって、高校生の頃だけだよな。あの頃は可愛かったのにな、どうしてできなかったのかな」
店長がカウンターに肘をついて、会話に完全参加だ。
と言っても、店内には客と呼べる人影はひとつも無いのだから仕方が無い。
「そんなに可愛かったんですか?」
けだるそうに千尋が聞いてくる。
千尋は実香より八歳年下の高校三年生だ。
あちこちのバイトを渡り歩いて、たどり着いたのがここ、軽食喫茶『ハンプティ』なのだ。




