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ぴちぴち戦隊 春の陣

 桜舞い散る総合美化学研究所の中庭、暖かい陽射しの下でピチピチ戦隊の3人は豪華な弁当を広げて花見に興じていた。

「それにしても、変ねえ」

 シャドーが首を傾げる。

「何が?」

 花びらを身体にまとったホワイトがたずねる。

「どうした風の吹き回しかしら、あのドけち博士が……」

 その時。

「みなさ~ん、楽しんでる? どうかしら特注のお弁当の味は」

 真っ赤な原色の上下に白衣を引っ掛けた、スレンダーな中年美女が3人の前に現れた。

 白くて張りのある肌は見事だが、どうしても目じりからはその実年齢がにじみ出る。

「あ、眉墨博士」

 この女性こそ、品性下劣なエロリストに立ち向かうべく、総合美化学研究所が社会貢献目的に結成した美少女戦士・ピチピチ戦隊の生みの親、コスメパワーの発見者眉墨博士であった。

「遅れてごめんなさい、予算の事で揉めちゃって」

「予算?」

 3人が口を揃える。

「ええ、実は来年度からピチピチ戦隊の予算が削減されることになったの」

「って事は?」眉をひそめるシャドー。

「そう、あなた達のパワーの源、スーパーコスメが作れなくってピチピチ戦隊は解散って事になりそうなの」

「じゃあ、このお弁当」ホワイトがあらかた食べ終わった弁当を見ながら呟く。

「お別れ会って、事で特注したの」

「いやよ、だって……」

 幾多の試練を越えてきた仲間との別れ。

 それは、すなわち全力を傾けてきたエロとの戦いの放棄。

 3人ががっくりとうな垂れたその時。

「わ~はははははっ! 春といえば私の出番だな」

 振り向いた4人の目に映ったのは、百花繚乱の中……。

 ぷぷぷぷぷ。

 薄く透けた白いレースをまとって、花を口から吹き出し続ける男。

「あなた誰っ!」

 戦闘体勢をとったホワイトが叫ぶ。

「ふふふ、私は名画『ビーナスの誕生』で男になった。その名もすなわち」

 男はいつの間にか出現した貝殻の上に乗って空中に浮かび上がった。

「ボッキチェリ!」

「もっとマシな敵役はいないのぉ」思わず頭を抱えるピチピチ戦隊。

「陽気のせいでとりわけ変なのが出てきたわね」

 落胆を隠せないシャドーが呟く。

「この小娘ども、よくもエロ魔王、エロ将軍、乳王を葬ってくれたな!」

「人を不快にさせるエロを私達は許さないのよっ! 変身っ」

 キラーホワイト、バトルルージュ、ミステリアスシャドーに変身した3人は飛び上がってボッキチェリにとび蹴りを食らわした。

「うっ」

 きれいに決まった蹴りで芝生の上に倒れこむボッキチェリ。

 しかし、顔色を変えたのは3人のほうだった。

「な、何……この臭さ」

 バトルルージュが鼻を押さえてうずくまる。

「わーははは、わしは危険に陥ると全身のアホクリン腺からくさい臭いを分泌するのだ」

 男はよろよろと立ち上がった。手にはタンクにつながったホースが握られている。

「必殺、化粧落としを喰らえ」

 匂いに苦しみ、のたうつ少女達の顔にホースから噴出する化粧落としの液体が容赦なく襲い掛かる。

「追加のコスメも無いお前たちに助かる術は無い」

「ああっ、お、落ちるぅ……」

 すべてのコスメを洗い流されたキラーホワイトが喘ぐ。

 しかし。

「ぐえっ!」

 空中から鉄槌を振り下ろされたような衝撃を受けて、ボッキチェリが昏倒した。

「足の静脈の弁をゆるくすることでむくませて蹴りの威力を増す、その名もむくみ蹴り」

 眉墨博士の白衣から出た桜島大根のような足はすぐさまもとの細い足に戻っていった。

「どう? 熟女パワーも捨てたものじゃないでしょ」

「博士!」駆け寄る3人。

 ふふ、博士は妖しい微笑みを浮かべた。

「お、お前裏切ったな!」力なく叫ぶボッキチェリ。

「え?」

 ピチピチ戦隊の表情が固まる。

「ふふふ、ここまで来たら後はお役ごめんだわ」

 不気味な笑いを浮かべながら博士が呟く。

「なんだと」

「あんた達、技が汚すぎるのよ。くさいくさい。仲間なんじゃないわ、さっさと何処かにお行き」

 反撃しようとしたボッキチェリは博士の顔から出た熱線に焼かれ、悲鳴を上げた。

「ホットフラッシュ攻撃よ」

 逃げていくボッキチェリを一瞥すると、博士はピチピチ戦隊のほうに向き直った。

「は、博士……あなたが黒幕だったのね」呆然とする3人。

「もしかして、あなたもエロ魔王達の仇を討ちに来たの?」

 ホワイトが叫ぶ。

「まさか、あんな美しくない奴らは利用しこそすれ、仇討ちなんて頼まれてもしないわ」

 ほほほ、眉墨博士は微笑んだかと思うと一転、ピチピチ戦隊をぎろりとねめ付けて低い声で呟いた。

「女の敵は女よ」

 ピチピチ戦隊の前で白衣を脱ぎ捨てると、眉墨博士が白い光に包まれた。

 光の中から現れたのは、猫耳に白い毛の付いたビキニに身を包んだ博士。

「私は永遠の若さを保つ八尾比丘尼の末裔、にゃおビキニ様よ!」

「博士、ちょっと痛いです……」

 バトルルージュの一言が博士の闘争心に火をつけた。

 ばしっ!

 バットに殴り倒されたかのように3人は同時に羽跳んだ。

「な……」

 腫れ上がった頬に手を当てて凍りつく少女達。

 サンドバックのように膨張したにゃおビキニ様の胸が左右に揺れながら3人に襲い掛かる。

「秘技、豊胸タワー!」

 勝ち誇った博士の前になす術も無いピチピチ戦隊。

「あんた達、知性も無いくせに無邪気に若さをひけらかして、ちやほやされて。ったくイライラすんのよっ」

「そ、そんな」

 ホワイトの瞳から、涙が滲む。

「その計算づくのいやらしい液体が、むかつくんだよっ」

 ホワイトの白い頬が凶乳に張り倒され、真っ赤に腫れ上がった。

「ちょっと違うんじゃないの? 博士」

 シャドーが博士を睨みつけた。

「若さを憎むあんたの心が『醜い老い』を育んで……」

 皆まで言わせず、にゃおビキニ様の蹴りがシャドーに炸裂した。

「次の一撃であんた達をあの世に送ってやるわ」

 口元に滲む血を手で拭って、ホワイトがすっくと立ち上がった。

「ありがとう」

「な、何が」思いがけないホワイトの言葉にうろたえる博士。

「あなたは、教えてくれたわ。コスメなんて必要ない。年を経た熟女の生命力こそ、本来の女の強さなのよ」

 バトルルージュとミステリアスシャドーも立ち上がった。

 コスメを失った3人。だが、3人の目には明らかに今までと違う目力が宿っていた。

「行くわよ!」

 3人はにゃおビキニ様を睨み返した。

「視線の技、嫉み返しっ! 四川の辛さで浄化されなさい!」

「ぎゃああああっ、め、眼が痛いっ」

 ぼろぼろと涙を流す、にゃおビキニ様。

「あ、あああああ」

 そのまま、崩れ落ちたにゃおビキニ様はもとの博士の格好に戻っていた。

 全身を震わせて激しく泣き続ける博士。

「ごめんなさい、私どうかしてたの。あなた達の若さが気が狂うほどに羨ましかったの」

「博士」ホワイトがしゃくりあげる博士の顔を覗き込んだ。

「女の敵は女だけれど、女の味方も女です」

「そう、またエロとの戦いを続けましょう」バトルルージュも微笑む。

「コスト削減して、もっと安くコスメ作るわ」

 鼻水を垂らしながら3人と固く握手する博士。

「でも、もうピチピチ戦隊は解散よ」

 シャドーが高らかに宣言する。

「え?」

「私達、そろそろ大人の色香を知ったムチムチ戦隊にシフトしてもいいんじゃない?」

「じゃああたしも入れるかしら」博士の顔が輝いた。

「もちろんですよ、博士」ホワイトがウィンクする。

「これからは痴性には知性で勝負! かかってきなさいエロ軍団」

 桜吹雪の中、4人はこぶしを振り上げた。


 それイケ、やれイケ、突き進め。

 ムチムチ戦隊も、随時隊員募集中です~。


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