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ぴちぴち戦隊 冬の陣

「明けましておめでとうございま~す!」

 初詣でにぎわう神社の一角。

 人混みから叫びながら飛び出したのは、宝模様がちりばめられた赤い振袖を着て破魔矢を持った少女。アップにした髪に白い羽飾りが揺れている。

「ルージュ、シャドウ、ここよ、ここ」

「きゃー、ホワイト。今年もヨロシク!」

 ルージュと呼ばれて振り返ったのは星と小花の舞うピンクの振袖をひらめかせ、綿菓子と焼きイカを両手に持った少女。そして背後から渋い深緑の地にあでやかなランの花が浮き上がる振袖でシャドーが登場した。襟元から覗く白い首筋が相変わらず妖艶だ。

「総合美科学研究所ピチピチ戦隊の美少女戦士が勢ぞろいって訳ね」

「今年も、コスメパワーで変態どもをやっつけるわよ!」

 久しぶりの晴れ着に、盛り上がるホワイトとルージュ。

「ところで」シャドーが、袂からゆっくりと一枚のおみくじを取り出した。

「今年も波乱万丈になりそうなのよね」切れ長の目が妖しく微笑んだ。


「ここが、おみくじに見せかけた挑戦状の場所?」

 ピチョーン、ピチョーン。暗い洞窟の中はただ滴り落ちる水滴の音が響くのみ。

「戦闘服に着替えてくればよかったかしら」帯を苦しげに持ちながらホワイトが呟く。

「だって、着付け代高かったんだもの、簡単に脱ぐなんて嫌よ」ルージュが口を尖らせる。

「それにしてもなんだか、息苦しい」

 シャドーがともすれば滑りそうになる足元を気にしながらあたりを見回した。

 懐中電灯を向けると、瓜のように膨れてぼよんぼよん垂れ下がる鍾乳石の先端から水滴が滴り落ちるのが照らし出される。

「なんだか、すご~く不愉快なのよ。まるで豊満な胸に囲まれているよう……」

「これ見よがしって感じね」

 確かに、息が詰まるような圧迫感がある。ホワイトはふと手元に垂れさがる鍾乳石を掴んだ。

 むにゅっ。

「こ、これは……」

 ぽったりと垂れ下がる肌色の鍾乳石の先端には、ほんのりピンクに染まった突起が。

「これは、鍾乳石じゃないわっ」

 その瞬間、洞窟の中がいきなりまぶしい光に満たされた。

 嬌声を上げ、目を閉じるピチピチ戦隊。

「はははは、巨乳洞にようこそピチピチ戦隊」

「お、お前は!」

 少女達の目の前に立ちはだかったのは、乳首にピアスをした白い二体の仁王像。

「ピチピチ戦隊よ、ここは鍾乳洞では無い。アスリート美女のお前ら唯一の欠点、貧乳コンプレックスを刺激するために改造された巨乳洞だ。ここではコンプレックスが常にお前らの自律神経を襲い、通常の半分の力しか発揮できなくなるのだ」

「またヘンなのが出てきたわ」

 眉をひそめてシャドーが呟く。

「あいつら、まるで鎌倉時代の、ほら……」ルージュが額に手を当てる。

「運慶、快慶作の仁王像!」

「そう、私達かしこーいっ」

 久しぶりに知識をひけらかした三人娘は手を取り合って喜ぶ。

「違ーうっ! 仁王ではない。我らは乳王だ! よくも我が盟友エロ魔王とエロ将軍を葬ってくれたなっ」

 筋肉隆々とした二体の乳王が大音声を上げた。

「我が名は、いん慶」

「我が名は、かゆい慶」

 そして乳王達は、ボディビルのようなポーズを決めて声を揃えた。

「続けて読むと、いんけいかゆ……!!」

「もういいわっ、品が無いんだから」シャドーが頭を抱えて叫んだ。

「ピチピチ達よ、お前らはもう逃げられない。おとなしく我らのエロ人形になるのだ」

「正月早々変態の相手をしてる暇なんかないのよ」

 叫ぶや否や、ホワイトのとび蹴りが炸裂……。と、行きたいところだがなにせ本日は振袖でバッチリ決めている。飛び上がったのはいいが、帯の重みで勢いよくひっくり返ってしまった。象牙のような白い足がはらりと裏返った袂から覗く。

「かんざしアタック!」

 すかさずルージュがかんざしを投げる。狙い過たずそれは乳王達の股間にさくさくっ、と突き刺さった。

「ぐおおおっ!」二体の乳王の形相が憤怒に変わる。

「小娘ども、もう手加減はせんぞ」

 叫ぶと同時に乳王の乳ピアスがピンク色に輝いた。

「秘技、乳戦場のアリアで悶絶しろっ」

 強い風が鍾乳洞の柱に当たり、乱気流となってピチピチ戦隊を取りまいた。

「きゃあああああっ」

 渦を巻く気流に引きずり込まれきりきり舞いする少女達。

 程なくするすると帯が解けはじめ、必死の抵抗むなしく三本の帯が舞い上がる。

「しまった、苦しいものだから紐を緩めていたわ……」呟くルージュの振袖が身体から剥ぎ取られる。

 そして、桃色の肌襦袢も乱気流にあおられ、白い肩がむき出しになった。

「ああっ」ホワイトとシャドーも白い肌襦袢から素肌をあらわにして、なすすべなく渦に翻弄されている。

 ふっ、と乱気流が止み三人はその場に崩れ落ちた。破れた襦袢でかろうじて胸と下半身を隠すのが精一杯である。

「ふふふふ、目が回ったみたいだな。お楽しみはまだまだこれからだ」

 乳王の一人が垂れ下がった巨乳石の先端を三人に向け、ぎゅっと握り締めた。先端の乳頭から勢いよく噴出される白い液体がピチピチ戦隊に容赦なく降りかかる。それはまるでTシャツ姿のグラビアアイドルに水をかけたような効果となり、ぴったりと張り付いた襦袢の上からくっきりとボディラインが浮き上がった。

「コレは特製の石膏だ。お前らは生きながらにして固められるのだ」

「そうは行かないわよ!」平衡感覚を取り戻したホワイトがお得意のコスメパワーで固まった石膏を撃破しようとした、その時。

 別な乳頭から噴出されたクレンジングが三人の顔を直撃した。勢いよく洗い流されていくコスメ。

「ふふふ、化粧が流れてコスメパワーが使えなければお前達はタダの小娘だ」

 身体は石灰で固められ、化粧は剥がれてすっぴんに。

 ピチピチ戦隊絶体絶命!

「そろそろ息の根を止めて、エロミタージュ美術館のエロ人形館に陳列してやる」

 乳王達が少女達の顔に石膏液を向けた、その時。

 ぺり……。

 ほぼシャドーの形になった鍾乳石にぴりぴりとヒビが入り、砕け散った。

「な、なぜだ」驚愕のあまり見開かれる、乳王たちの瞳。

 シャドーは飛び上がると、勢い良く長い手を彼らの脳天めがけて振り下ろした。

 見かけとは違い、あっけなく倒れる乳王達。

「け、化粧は洗い流したはずだ……」

 ふふん、と鼻で笑うシャドー。「まる鍋と同じよ」

「なんだと」

「長年すっぽんを煮込むのに使った鍋は、味が染み込んでいてたとえ水を入れてもすっぽんのだしが取れるというわ」シャドーは自分のまぶたを指差した。

「長年重ね塗りしたこの皮膚にはね、洗っても落ちないほどのアイシャドーが染み込んでいるのよ」

 その隙に、化粧品を晴れ着の袂から出して顔に塗りつけるホワイトとルージュ。

「女にとって化粧はね、半端な遊びじゃないのよっ」

 ルージュのエルボーが、ホワイトのとび蹴りが炸裂して、乳王達は砕け散った。


「今年もこの調子でガンガン行くわよ」

 ホワイトの言葉に、他の二人が頷く。

「でも、私達若さと美貌だけに頼ってるでしょ。この先……」シャドーがポツリと呟く。

「大丈夫、大丈夫。なんたって鍾乳洞を勝乳洞に変えることができる私達ですもの」

「それも、そうね」

 ホーッホホホホホッ、新春の空に勝ち誇った三人の声が吸い込まれていった。


 長年の化粧で、難を逃れたピチピチ戦隊。

 しかしエロ勝手な悪人が、まだまだピチピチ少女達を狙っている!

 初詣のすんだそこのあなた! 

 ピチピチ戦隊は、いつでも隊員募集中で~す!


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