ぴちぴち戦隊 秋の陣
「お嬢ちゃん、ええ会話しませんかぁ」
「英会話?」
パッチリした瞳の美少女が立ち止まる。
男は何食わぬ顔をしてミニスカートの中にそっとカメラを入れた。
が。
「かかったわねっ」
盗撮男の目の前で、少女が空中に飛び上がった。
「この変態男っ、キラーホワイトがお相手よっ」
電光石火の早業で白い足が弧を描く。
「ぶふぉっ」
蹴り飛ばされた男は潰れたヒキガエルの如く、路上に崩れ落ちた。
「ふん、連続盗撮犯の噂を聞いて罠を張ってたのよ」
ホワイトは得意げに鼻をならした。
「この小娘っ」
不意に背後から別の男が襲いかかった。
「あっ」
羽交い絞めにされ、白いリボンのポニーテールが大きく揺れる。
あたりを見回すも、人影は無い。
「総合美科学研究所のピチピチ戦隊か、一人とは舐められたもんだな」
男が立ち上がり、ホワイトの胸に手を伸ばした。
その瞬間。
「お待ち、この蛆虫っ」
声と同時に黄金の鞭が男の首に巻きついた。
鞭の先には、グラマーな肢体を黄色のスーツに包んだ長い髪の女。
肘鉄をかまし、ホワイトは背後の男の腕を振りほどいた。
「行くわよ、ベースっ」
同時に飛び上がった二人の細い足が舞い、蹴りが男達の顔面にめり込んだ。
「私はピチピチ戦隊新隊員、ビクトリー・ベースよ。覚えてね」
男達はせっかくの投げキッスにも気づかず、昏倒していた。
「大丈夫っ?」
ホワイトの危険を知った仲間のルージュとシャドーが駆けつける。
「ええ、彼女のおかげで間一髪」
「頼りになるぅ」
褒められて、頬を染めるベース。
「でも、これはいただけないわ」
ルージュが、ベースの首に下げられた不細工な青い半球形のペンダントを指差した。
「……これは」
ベースが口ごもった、その時。
「探したぞ、ピチピチ戦隊っ」
大音声とともに、電飾の付いた極彩色の裃に身を包み、ちょんまげに薔薇をあしらった男が現れた。 その両脇には薔薇の文様の着流しを着た男二人が付き従っている。
「また、ヘンなのが、出てきたわ」
シャドーが溜息をつく。
「我が盟友エロ魔王をよくも葬ってくれたな。その報いしかと受け取るがいい」
「エロ同盟にはこちらも容赦はしないわ」
余裕の笑みを浮かべたホワイトがミニスカートのすそを捲り上げた。
「ピチピチフラッシュっ」
白い太ももから発せられる、悩殺光線が辺りを包む。
「普通の男なら、これでもう再起不能ね」
シャドーがベースに話しかける。だが、ベースの顔色が悪い。
「ベース……?」
会話をさえぎってルージュが叫ぶ。
「二人とも見て、あの男達平気っ」
「き、効かない」
愕然と立ちすくむホワイト。
「ふふふ、男がすべて女を好きだと思ったら大間違い。わしのエロは同性のみに向けられるのだ」
ちょんまげを震わせて男が笑った。
「エロで世界を征服し、この世を薔薇色のエロ時代にするのじゃ。今日から東京改め大エロ八百八町。大江戸線は大エロ線へ改名して、全車両、同性に限り猥褻し放題っ」
「な、何者っ」
四人は再び身構える。
「ええい、控えおろう。このやおいの紋が目に入らんか? このお方をどなたと心得る」
供の男が叫んで、印籠をかざした。
ショッキングピンクの印籠の表面には二つの男性マークがまるでウロボロスの蛇の如く円を描きお互いの丸を矢印が刺し貫いている。
ベースが呟く。
「矢追いの紋に、同性愛主義。お前はエロ将軍……み、meと肛門!」
「このわしを知っているとは、素人じゃ無いな」
エロ将軍が、ジロリとベースを睨んだ。
「まあいい、全員品行方正四角四面地獄に堕ちてしまえっ」
将軍はにやりと笑って全身の電飾を不気味なリズムで光らせた。
「美青年に恋したが、相手は男にしか興味が無くって尽くしても暖簾に腕押し。女性なら一番耐えられないこの感情を集束した、美青年悶々ビームを食らえっ」
薔薇色の光線が印籠から発射され、四人を直撃した。
「ああんっ」
なまじ美しく生まれた少女達。
男に袖にされる経験に乏しい少女達は、苦悶の表情を浮かべて路上に蹲る。
だが、妖しい光の中すっくと立つ一つの影があった。
「な、なぜだ」
「無駄よエロ将軍、私には効かない」
冷たい声が響き、鞭が一閃した。
ピンクの印籠が砕け散る。
「ありがとう、ベースっ」
精神攻撃から逃れた少女達が立ち上がる。
しかし。
今度はベースが身体を震わせ始めた。
「どうしたのっ」
胸のペンダントが赤く点滅している。小刻みに揺れるベースの輪郭がずれ始め、次第に筋肉質の男の姿が重なり始めた。
「お、お前は」
エロ将軍が叫ぶ。
「我が薔薇一族から出奔した黄願丸。姿を変えてこんなところに居たのか」
ふらふらと後ずさるエロ将軍。
「わしは野生的なお前を好きだったのに……」
「私は女装趣味だけど、恋をするのは女性……。あなたとは相容れないの」
ペンダントが赤に変わり、ベースの姿がガテン系の男に戻った。
「ベ、ベースっ」
悲鳴に近い叫びを上げるピチピチ戦隊の面々。
「騙してごめんなさい。総合美科学研究所の眉墨博士がホルモン刺激剤入りカラータイマーの青い間だけ、女になれるようにしてくれたの」
口髭がわなわなと震える。
「ふふ、姿を変えてもお前は男。心の奥にはエロの噴煙が立ち昇っているはずだ。ピチピチ戦隊でやっていけるはずが無い、我が軍門に下れ」
「同性、異性、愛の形は関係ないわ。良いエロは相手に嫌な思いをさせないもの。あなたのエロは、滅ぼすべき悪いエロ」
ベースはエロ将軍を睨みつけた。
「秘技、ミー、とオッ……」
掛け声とともにベースが飛び上がって両手を突き出した。
「パイッ」
手から放たれる細い針がエロ将軍らの胸に二つずつ突き刺さる。
「ぐおっ」
針は一瞬胸に突き立つもすぐにはらりと地上に落ちた。
が、そのとたん彼らの胸は服を突き破って見る見るうちに膨れ上がった。そしてその頂点には虫に刺されたような赤いイボが。
「かっ、かゆ~いっ」
エロ将軍一行は胸を掻き毟りながら悶え苦しむ。
「蚊の毒液を最新バイオテクノロジーで強化したパイ毒よ。地獄の痒みを味わいなさい」
「とどめよっ」
「待って、ホワイト」
ベースが首を振る。
「こんな奴に貴女が手を下す必要ないわ」
ベースはホワイトを見つめた。
「私、貴女が……」
「見てっ」
ホワイトが叫ぶ。エロ将軍らは胸が気球のように膨張し、空中に舞い上がっていた。
「ふふふ、まだまだ甘いな小娘ども。バイオテクノロジーと言うのなら、パイをテクノロジーぐらいには捻らねば……」
憎まれ口の途中、ぷシューという情け無い音とともにエロ将軍は虚空に消え去って行った。
「一本とられたわ。この後に及んでギャグを飛ばすとは、敵ながら天晴れ」
ホワイトが唇をかんだ。
「考えなおして、もう私達仲間よ」
口々に引き止める少女達に、再びピチピチ美女に戻ったベースは首を振った。
「ごめん。私やっぱりここには居られない」
「なぜ?」
ホワイトの姿を目に焼き付けながらベースはそっと背を向けた。
「戦いに私情は禁物」
わかっているのか、シャドーが呟いた。
「引き止めてやるな」
不満げにシャドーを見るも、仕方なく頷く二人。
ホワイトが叫んだ。
「また、一緒に戦いましょうねえっ」
三人は小さくなるベースの姿にいつまでも手を振り続けた。
この世を悪いエロから守るため、今日もピチピチ戦隊が行く。
常時、隊員募集中。
年齢性別問いません、ピチピチ戦隊は勇猛果敢なあなたを待ってま~す!!